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第11話 閃光

 第11話 閃光



 かつて、アリアスには守護者たちがいた。


 その者たちは、古の時代からアリアスを守護する為に戦っていた。


 しかし、その使命を果たすことが出来ず、星は滅びを待つことになる。


 時が流れ、アリアス王国の時代に彼ら守護者たちは再び世に現れる。


 それは星の滅びの直前であったが、守護者たちは王国の民を宇宙に脱出させるために奔走した。


 しかし、滅びの勢いは凄まじく、人々は困難にさらされた。更には、心を狂わせたかつての守護者が古代の禁忌の技から生み出した、心なき人形がアリアスを蹂躙する。


 大勢の民が為すすべもなく殺められ、民を守ろうと戦いに赴いた王もまた、共に戦った兵士と守護者たちと共に力尽きてしまう。



 だが、その圧倒的な勢いで迫る滅びを前に、王女たちと守護者の最後の一人は奮闘し、数々の決断を乗り越え、残された民と共に宇宙へと船出する。


 星は砕け散り、故郷の星を消えてしまうが、人々は生き延びた。守護者は、今度こそ守り抜いたのだ。


 しかし、彼はその直後に一隻の船と共に宇宙の果てに姿を消してしまう。その任務を果たし、役割を終えたかのように。


 だが、王女と、彼と親しき者たちは誓う。この広大な宇宙で必ず彼を見つけ出し、共に新たな故郷へ帰ると。



 以後、彼の精神を受け継ぐために、アリアス船団には二つの紋章が至る所に刻まれている。


 一つは、古くからのアリアス王国の紋章。


 もう一つは守護者の紋章。


 そして守護者の紋章には、漆黒と真紅の毛並みの狼が、門の前に佇む姿が描かれている。




「ふう…これはなかなかの嵐だな。サラ、後ろにつけ」


「了解です。ずぶ濡れになる前に帰りたいものですね」


 キャヴァリアーの大きな盾を前に構え、船の後部から上部に移動する。盾には守護者の紋章が鮮やかに刻まれていた。


 船は細かく姿勢を変え、胴体左右にあるフォトン・バルカンが大きな破片を撃ち落としている光景が目の前にあった。破砕された細かな破片は、船のディフレクター・シールドに阻まれ、船体に当たる前に消滅する。


 遠方から見える範囲だけでもかなりの数の破片が向かってきているが、今のところ先ほどのような被弾はしていなかった。


「頼れる妹たちとエルだよ。さすがだな」


 素直に喜ぶエメリア。状況はまだ落ち着いていたが、船の上部に細かな傷がついているのが目に入ると、気を引き締める。


 この船のフォトン・バルカンは、左右と下方に広く射界がとれる。しかし、前後の一部と上部は射界から少し外れており、撃ち漏らす危険が高い。


 その分をソフィアが船の向きを変えることでカバーしていたが、旋回速度にも限界がある。そこで、キャヴァリアーの出番なのだ。


 ただ、その出番はほぼエメリアの独断なので、キャヴァリアーにどこまで出来るのかはわからない。それに、盾や装甲に守られていても、破片が直撃すれば無事では済まないのだ。


 それでも、先ほどのようにまた船が被弾すれば、どれだけの被害が出るだろうか。既にエンジンを破壊され、格納庫も損傷している。次が無事とは考えられなかった。



「サラは後部から射撃してくれ。結果的に当たらないものであっても、その判別は難しい。だから、なるべく面で制圧を頼んだぞ」


「了解しました。陛下、ご武運を!」


 二人は船体の全部と後部にそれぞれ配置する。エメリアはブリッジの真上に陣取った。


 それを見たブリッジのソフィアたちは驚く。


「うわあ……エメリアお姉ちゃん、さすがだね……」


 ルーナは射撃の操作をしつつ、驚きの声を漏らす。


「うん…。ルーナは真似しちゃダメだよ?」


「え? なにが?」


「いや…なんでもないよ…」


 ソフィアは妹の昔を思い出す。ルーナは泣き虫だが、昔は出張に出ていた母に変わって家事全般を切り盛りし、時には姉より強気で豪快になっていた。足を怪我してからは寂しがり屋な性格が少し強くなり、大人しくなっていたのだが、義姉のエメリアに影響されてからは再びソフィアと張り合うようになったのだ。


 それは喜ばしいことだ。ソフィアもそう思っている。しかし、姉の威厳が…。時々、それが心配にもなる。この大変な状況でも、ふとそう思ってしまった。


 対して、ルーナは表向きはあまり変化なく、割と素直に驚いているように見える。後でどうなっているかはわからないのだが。


 そんな姉妹のやりとりとは別に、ルーナと射撃の操作をしているエルは、内心ハラハラして心臓が止まりそうだった。


(あー、胃が痛いわー。エメリア様、許してー)


 心の中で棒読みになるエル。今更何か抗議しても、もうダメだ。それに、武人としてのエメリアを尊敬もしている。民を守ろうと前に立つ女王陛下の姿は輝いていた。


 それでも、やはり心配は増すばかりだが。



 エルの心配を他所にエメリアは剣を構えて迎撃の体勢をとる。エネルギーの刃は青白く輝き、その光が船に反射する。


 その後ろ、壊れた後部エンジンの少し前あたりに陣取ったサラは、キャヴァリアーの脚部を船体に固定している。エメリアの機体とも丈夫なケーブルでつないでおり、非常時には支えられるし、取り外しも容易だ。


 固定の確認を終えると、サラはバルカンを構える。それから間もなく、目に入った大きめの破片に向けて射撃を始めた。


 バルカンはエネルギー弾なので、装填の必要はない。エネルギーそのものも、キャヴァリアーのジェネレーターで十分に供給がまかなわれており、問題ない。とはいえ、エネルギーの弾丸を打ち続けると砲身が過熱するので、適度に射撃の間隔を開けていた。


 サラは元々弓の名手であり、射撃の感覚そのものは優れている。しかし、バルカンに力加減などは無いため、射程距離の感覚は少し戸惑っていた。どちらかといえば、この射撃はクロス・ボウの扱いに長けていたフラガの方が得意そうだ。サラはそう考えると、少し微笑む。


 この状況で一番気になるのは、エメリアの動きだった。彼女自身は破片を切り落とせると言っているが、ほかの人々にはそのイメージが浮かばない。


 そんな時、大きめの破片が正面から一瞬で迫ってくる。ソフィアたちは対応しようとするが、旋回が間に合わない。


 ソフィアたちがハッと息をのむ瞬間



 青白い閃光が周囲を照らす。


 再び正面に視線を向けた時、破片はそこに存在しなかった。


「まさか……本当に…!?」


 エルは身体が震えるのを感じる。ソフィアとルーナは信じきっていたのか、嬉しそうに笑っていた。


 エメリアは宣言通り、高速で飛来する破片をエネルギーの剣で斬っていた。その反応はキャヴァリアーとは思えない、一瞬のものであり、剣筋は青白い残像として見えていた。


 それを後ろから見ていたサラは叫ぶ。


「姫さま、お見事です!!」



 サラは船との通信も繋いでおり、目の前で見た映像も送っていた。その言葉と様子はアビーによってモニター越しに船内に流される。


 その後には、船内の至る所からあがる歓声が響き渡っていた。イーサンはモニターに向かって吠えるように、ニーナは涙を浮かべながら叫んでいた。


「あーあ、側で見たかったぜ…。今からでも行きてえなあ…」


 医務室で手当を受けているフラガは悔しそうに呟く。


「ダメですって…。でも、エメリア様は凄すぎますね…鳥肌が立っちゃいました」


 ペーターが鳥肌の腕をフラガに見せる。フラガは口を開けて大笑いしていた。




 それからも、エメリアとサラのキャヴァリアーは破片を迎撃し続ける。第二波、第三波と破片は降り注ぎ続けていたが、次第にその勢いは弱まり、とうとう琥珀の女王号はその影響範囲から脱することが出来た。



「ふう…。長雨だったが、終わったようだな」


 エメリアが首をコキコキと鳴らしながら呟く。


「お疲れ様でした。さすがは、アリアスで一番の剣豪ですね」


 サラに言われてエメリアは静かに喜ぶが、下を向いてクスッと笑う。


「そのうち、一番ではなくなるかもな…。成長が楽しみだよ」


 その視線の先には、ブリッジにいるソフィアがあった。嬉しそうに再びクスクスと笑うエメリアの心境を、サラは心温まる気持ちで眺めながら感じていた。



 束の間の安堵をしていた一同であったが。目の前を通り過ぎるものがあった。それは大きな壁のようだ。


 破片が通った道を辿るように、傷ついたコロニーと艦隊が、琥珀の女王号の目の前を通過する。こちらを一瞥もしない。その行き先はやはり青い星だった。


「アビー。あの艦隊は真っ直ぐ通って行ったが、急いでいるのか?」


 エメリアは艦隊を見据えながら尋ねる。


「…わかりません。確かに急いではいるようですが、何か違う気がします。それに、あの速度は…」


 アビーが急に黙る。しばらく待っていたが、様子がおかしかった。


「アビー、どうしたのだ?」


 エメリアは待ちきれずに言う。すると、アビーはピロピロと音を立てた。その音はどこか重々しい。


「エメリア様…これはあまりに…推測でも、あまりに…!」


 言葉を絞り出すアビー。こんなに苦しそうなアビーは初めてだった。やりとりを聴いていたソフィアたちも緊張する。


「アビー、どうしたのだ!? 大丈夫か!?」


 あまりの異常に、エメリアが叫ぶ。すると、再びピロピロと音が鳴り、その後にアビーのため息のような声が入る。


「…すみません、取り乱しました…。エメリア様、あの艦隊が慌てている理由がわかった気がします…」


 静かに重い雰囲気で言葉を繋ぐアビー。


「理由…?」


「はい…。艦隊がなぜ急いでいるのか。なぜならば…あのコロニーは……あの青い星に向けて落下しているからです」


 落下している? 全員が言葉を繰り返すが、その意味を理解できない。


「ねえ、アビー、落下してるって…あの星に?」


 ソフィアは堪らず、アビーに問いかける。


「はい。どうやら先の爆発でコロニーは制御を失い、あの青い星への落下しようとしています」


 ソフィアは心臓に刺さるような痛みを感じる。いや、もっと奥だ。


「落下…だって、あのコロニーの中には沢山の人がいるんじゃ…」


 そうだ。あの中には、数千万の人々がいる。その先を聞くのが怖かった。


「…そうです。そのコロニーが、青い星に墜落しようとしているのです」



 静寂。そう言っていいほどの静かな時が一瞬あった。数千万の命が、星へ激突しようとしている。



「…いやだ…そんなの、絶対に嫌だ!!」


 ソフィアは叫び、船を急いで回頭させる。それからエンジンを目一杯に回して、青い星へ向かおうとする。


「ソフィア、待て!! 我々だけでは無理だ!」


 エメリアは咄嗟に制止しようと呼びかけるが、ソフィアには声が届かない。


 側にいるエルも、座席から立ち上がってソフィアを止めようと試みる。しかし、それを振り払い、なかなか止められない。


「ソフィア、落ち着いて! お願い!!」


 エルはソフィアの体にしがみつくようにして、必死に呼びかける。ソフィアは強く、力づくに…とは出来ない。


 ルーナも側にはいけないが、ソフィアの名前を呼び続ける。しかし、ルーナも本当はソフィアの気持ちと同じだ。それ以上の言葉は言えなかった。



 エメリアは、なんとか止めるために船をキャヴァリアーで押し返そうかと考え始めた時…


「!! エンジンが…止まった?」


 急に船のエンジンの音が静まり、船は惰性で進むだけになった。


「なんで…なんで邪魔をするの、アビー!!」


 悲痛な叫び声で問うソフィア。船のエンジンを強制的に止めたのはアビーだった。


「ソフィア様…私だって、助けに行きたいのです。ですが、もう間に合いません…。それに、今行けば、衝撃に巻き込まれるかもしれません」


「うあああああ!!!」


 ソフィアは俯き、泣きながら両手の拳を握りしめ、操縦席を激しく叩いた。エルもルーナも、そのソフィアにかける言葉が見つからない。



 エメリアは、悲しみ嘆くソフィアの姿を見て歯軋りをする。それは、ソフィアに対してではない。自分に対してだった。


(私は…またソフィアにこの想いを…なんて様だ…)


 エメリアは操縦用の手甲を外し、上を向いて目を閉じる。そして、妹の流す涙に耐えきれず、目を両手で隠し、声を堪えるようにすすり泣いた。



 それから10分にも満たない時の後



 コロニーは多くの命と共に、輝く青の星に閃光と炎をもたらして墜落した。





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