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第10話 キャヴァリアー

 第10話 キャヴァリアー



「おい、大丈夫か!?」


 隔壁扉を開けて、イーサンは格納庫の中に入る。その後を応急班がぞろぞろと続いた。


「おう! 来てくれたんだな」


「通路、暗くて大変だったでしょ。お疲れさま」


 格納庫の被害に対応するため、大急ぎで駆けつけた彼らを出迎えたのは、整備班の面々の笑顔だった。


「お、お二人とも、ご無事でなによりです! あの、格納庫の状況は…?」


 イーサンは取り乱しつつも尋ねる。


「ええ…後部扉が破壊されたけど、非常用の装置で穴は塞げたわ。見ての通り、非常灯で暗いしコンテナは散乱してるしで、それなりに大変な状態よ。キャヴァリアーも一機、転がってるしね…」


「確かに…。ですが、皆さんがご無事で本当に良かった」


「ありがとう、イーサン。でも、フラガは少し腕を怪我してるわ。手当をお願いします。応急班の方たちは、私と一緒に格納庫の復旧作業をお願いできるかしら?」


「勿論です! 直ちに取り掛かります!」


 イーサンは応急班に指示を出し、それぞれが作業を始める。フラガは応急手当をする為に、ペーターに支えられて医務室へ連れられて行った。


 それから間もなく、格納庫の照明が復旧すると、一同は歓声をあげた。


「サラさん、やりましたね!」


「ああ。見かけほど損傷が酷くなくて良かった。ニーナもよくやってくれたね。ありがとう」


「えへへ。なんか照れくさいですよ」


「ふふふ。でも、まだ作業は終わりじゃないからね。気合い入れていくよ!」


「はい!!」


「いい返事だ。さて……ん?」


 サラとニーナが作業に戻ろうとした矢先に、船が大きく旋回を始める。


「これは…回頭しているのか?」


「え? どういうことですか?」


「つまり、今までとは反対の方向に船が向きを変えたって事だ。破片が飛んでくるのに」


「ええ!!? それじゃ、破片の雨に頭から突っ込んじゃうんですか!?」



 格納庫の中でどよめきが起こる。イーサンも状況がわからず、ブリッジに連絡を取ろうとした。しかし、その途端に船は再び振動し始め、フォトン・バルカンの射撃音が聴こえ始める。


「また始まった!? さっきので終わりじゃなかったのかよ!!」


 イーサンは思わず大声をあげる。サラたちと応急班も作業を中断して、ひとまず隔壁扉の前に集まる。


 その直後、目の前の扉が開き、入ってくる人物がいた。エメリアだ。


「へ、陛下!!!?」


 上ずった声で叫ぶイーサン。


「やっと見つけたぞ、イーサン。もう格納庫にいたとはな…。なぜ通信に出ないのだ?」


「あ…!! 通信機、壊れてる!!?」


 携帯していた通信機は沈黙しており、イーサンはそれを手に情けない声をあげている。エメリアたちはため息をついて、イーサンを睨んでいた。


「まったく…大事に扱わんか。体力と行動力は褒めてやるが、その抜けたところは直さんとな!」


「ももも、申し訳ありません!!」


「まあいい。さてと…サラは?」


「はい、姫さ…エメリア様。こちらにおります」


 サラはつい、昔の呼び方をしそうになる。最近、フラガの口癖が移ってしまったようだ。


「なに、公の場では困るが、私たちの間では遠慮しなくてもいいぞ?」


「恐れ入ります…」


「それより、私のキャヴァリアーは出せるか?」


「姫様の…? この騒動が始まった直後に、いつでも動かせるようにはしましたが…」


 サラは背後に固定されているキャヴァリアーを見上げながら答える。


「さすがだな。時間が無い。いつもの装備で、早速出撃する。手伝ってくれないか?」


 エメリアはそう言うと床を蹴り、キャヴァリアーの操縦席に向かう。


「エメリア様!!? 何をなさるんですか!!?」


 慌ててイーサンが叫ぶと、エメリアはニヤリと微笑む。


「船を操船している皆も活躍しているが、相当に消耗している。これ以上、この船を傷つけさせてたまるものか! 飛んでくる破片を叩き落とす!!」


 そんな無茶な!! その場にいた者たちのほとんどは心の声で叫ぶ。


 しかし、サラは目を輝かせている。エメリアに兵士時代の敬礼をして、キャヴァリアーを出す準備を始める。そしてイーサンも、直前の態度と異なり、皆にサラを手伝うように指示を出す。


「えええ!? サラさん!? いいんですか!?」


 ニーナがそう尋ねると、サラは嬉しそうに言う。


「勿論。 我らが姫様の出撃だぞ? 心が躍るよ」


 揺れる船の中、作業は進む。キャヴァリアーの固定が解除され、格納庫の中央にスライドするように移動する。後部の扉は開かないので、真下の降下扉から出るのだ。


「…これでよしっと! 総員、格納庫から一時退避!! キャヴァリアーが出るよ!」


 一同は慌てて隔壁扉に駆け込む。ところが、サラは逆方向に進み始めた。


「サラさん!? どこへ行くんですか!?」


「心配するな、ニーナ! 久しぶりに、エメリア様のお供をさせて頂くのさ!」


「そんな…! 外は危ないんですよ!? やめてください!!!」



 ニーナは叫び、サラを呼び戻そうとする。しかし、イーサンに引き戻される。


「君! 早く扉に!」


「嫌です!! このままじゃ、サラさんが危ない目に! あなただって、エメリア様を止めなくていいんですか!?」


「俺はな…この瞬間を見たいんだ」


「…え?」


 この状況で、何を話し始めるのだろうか? しかし、ニーナは耳を傾ける。


「サラさんとフラガさんを、俺は兵士時代からよく知っている。ある日、まだ見習いだった俺に話してくれたことがあるんだ」


「話って…?」


「我ら兵士にとって、人々を守る盾となることは誇りだ。だが、もう一つ誇りにしていることがある。それは、我らが剣を捧げた王に付き従い、共に出撃することだ。サラさんもフラガさんも、事あるごとにそう仰られていた。今は少し違う立場だが、俺は陛下が出撃する瞬間をこの目で見たいと思っている」


 ニーナは返す言葉に迷う。止めたい気持ちはまだ強い。しかし、イーサンの言葉はとても心がこもっていた。まるで、宝物の話をするかのように。


 そうしているうちに隔壁扉は閉まり、ニーナたちも格納庫から出ていた。サラは後部扉の前に転がるキャヴァリアーに乗り込むと、操縦席のハッチを閉じる。本来ならばソフィアたちが着ているパイロット・スーツを着るのだが、今は無い。宇宙服を脱ぎ去り、狭い座席の後ろに無理やり放り込む。下着姿は恥ずかしいが、操縦の為には仕方がなかった。


 座席に座り、ベルトで身体を固定すると、手には鎧の手甲、足には脛当てのような装置が自動で取り付けられる。これにより、キャヴァリアーの腕部と脚部の操作を行うのだ。


 エメリアも同様の操縦席に座っているが、サラの機体とはそもそも機体構成が違う。


 キャヴァリアーは汎用性が高く、操縦席があるコア・ユニットを中心に様々なパーツを組み合わせることが出来る。今二人が搭乗している機体はどちらも人型に近いパーツを装着しているが、エメリアの機体はエネルギーの剣と、射突杭が装填された盾を装備し、脚部に宇宙用の姿勢制御スラスターを増設した近接用だ。


 それに対し、サラが乗るキャヴァリアーは腕部と一体になった盾、もう片方の腕に回転する銃口を備えた小型のフォトン・バルカンを装備し、脚部は追加装甲を装着している。反動を抑えるための衝撃吸収装置も脚部の後ろに取り付けており、完全に遠距離射撃用であった。


 とはいえ、本来この二機のキャヴァリアーは戦闘用ではない。過酷な環境での探査や宇宙空間での作業が主任務になるのだが、船を離れて行動する際の自衛用として武装することが出来る設計になっていた。


 エメリアは深呼吸をしてから、通信を繋ぐ。


「サラ…お前はついて来なくても良いのだぞ? 手が足りないことを察しているのだろうが、外は飛びかかる火の粉で満たされている」


「ならば、王に飛びかかる火の粉を払うのが、我らの務めです」


「今は整備班として働いてくれているのだ。兵士ではないのだぞ?」


「心は常に、アリアス王国の兵士です。その気持ちが一番強いのはフラガなのですが…怪我人に出撃を勧めたら、ニーナとペーターに何を言われるか…」


 それを聞いて、エメリアは豪快に笑う。サラも可笑しくなって、同じように笑い始める。


「いやはや、整備班を務めるのも大変だな! しかし、後でフラガに出撃の事を咎められないか? というか、フラガは自分が行きたがっているのだ。嫉妬されるかもしれんぞ?」


「いえいえ! 出撃しなければ、フラガに失望されますよ。フラガならばそう言います」


「まったく…私は良い部下を持ったものだな」


 エメリアは嬉しそうだが、少し困った顔になる。


「だが…命を大事にしろよ。お前たちを慕う者たちがいるのだからな。彼ら、彼女らを悲しませることが無いようにな」


 サラはふと、ペーターとニーナ、そしてフラガの事を思い浮かべる。エメリアはソフィアたちのことを。


「はい…心に刻んでおきます」


 二人はそれぞれ、大切な者たちの顔を心に想う。そして再び深呼吸をしてから、目の前のモニターに集中する。


「よし。では、出撃する!! 行くぞ!!」


 足元の扉が開く。扉は後部よりかなり小さく、キャヴァリアーが一機ずつ降下する仕組みだ。それぞれの機体に命綱が取り付けられている事を確認すると、エメリアの機体は盾を構えて身構える。



 闇の中に流星の光が瞬く宇宙空間へ、鋼鉄の機体は躍り出ていった。



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