雨音
雨音と、時々飛行機の発着する音が、響いていた。
老人は、まっすぐにEvelynの顔を見つめた。
「ご迷惑をおかけした。知人の若いころに似ていたもので。」
と静かに言って、孝二とevelynの傍を通り過ぎようとした。
Evelynが突然
「マッテクダサイ。saraハ グランマノナマエ」
老人は、立ち止まった。
「まさか、saraの親類なのか」
Evelynは、うなづいた。
成り行きを見守っていた、孝二は話の内容から、saraという名前が、Evelynの祖母の名前で、それを知っているのが老人だと理解した。
Evelynは、もっと話しそうなったが、英語脳では難しい話は無理だと分かっていた。
いつの間にか、Evelynは、英語で口早に、老人をまくし立てていた。
単語の端々で、内容は理解できた。
老人は、黙ってそれを聞いていた。
「Sorry、I'M not Takebe.」
ときれいな、英語で老人は答えた。
Evelynは、、肩をがくっと落とした。
孝二は、老人に声をかけた。
「すみません、急に話しかけて、彼女、人を探しているんですよ」
老人は、すこし微笑んで
「分かっているよ、竹部 明憲少尉の事だろう。元私の上官だよ」
雨音が激しくなった。
「Evelynは、その人のことを探して、日本に来たんです。知ってることがあったら教えてあげてください。」
と孝二は、老人に頭を下げた。
「わかったよ、Saraさんの親類なら、なおさらだ。よかったら家が近くだから寄っていきなさい」
と老人はいって、孝二とEvelynを促すと歩き出した。
10数分ほど歩くと住宅街の中の一軒屋に案内された。
「ただいま、今帰ったよ。お客さんを連れてきたからお茶の用意をしてくれないか」
と老人は、玄関で靴を脱ぎながら、家の奥に向かって声をかけた。
足音がして玄関に出で来たのは、銀髪の外国人らしい女性が出てきた。
女性は、Evelynを見ると、少しびっくりしたがにっこりと笑って、玄関の横の応接間に案内した。
Evelynは、落ち着かないように、応接室の壁に掛かった写真を眺めていた。
どれも、風景ばかりの写真だった。
Evelynの目が一枚の写真に釘付けになった。
「Philippines!」
老人が入ってきて、写真を見つめるEvelynに向かって話した。
「Well。There is Mabalacat 」
続いて、先ほどの外国人の女性が、コーヒーカップとクッキーを持って入ってきた。
「私の妻の、Charlotteだよ」
銀髪にとび色の瞳を持つ夫人は、微笑んだ。
「そちらのお嬢さんには、私の英語より妻の英語の方が理解しやすいと思うからね、これでも妻は元英語の教師だし、日本語も達者だしね。」
「私は、新谷の妻で、Charlotteといいます。」
と流暢な日本語で、自己紹介した。
「私は、新谷 五郎といいます。竹部少尉の部下でした。」
Evelynは、何を話していいのかわからずに、壁の写真を見続けていた。
Charlotteが、一言二言、英語で声をかけると、テーブルのコーヒーカップを持ち上げてコーヒーを飲んだ。
新谷が、Charlotteに目配せをした。
「Please ask about anything」
とEvelynにいった。
Evelynは、祖母のSaraのことについて尋ねた。
「ここで、Saraさんのお孫さんにあったのも、竹部少尉の縁でしょうね。私もそんなに長くはいきていないかもしれないから、お話します。」
覚悟をしたかのように静かにいうと、横でCharlotteが、同時に英語で通訳を開始した。
孝二は、この不思議な空間にいることが非現実で仕方なかった。
60年以上も前の出来事をなぜ,聞かなければならないのか、また、Evelynは、なぜ祖母の遺言で日本に来たのかさえ、理解できなかった。
さらに,この出会いがシュチュエーションが出来すぎていることにすら違和感を覚えた。
何かの力が働いているのかとさえ思った。
しかし、しかし現実は目の前にある。
黙って聞くしかなかった。
「Where, did you meet my grandmother?」
新谷は,Charlotteの翻訳は必要とせず語りだした.
「昭和19年10月ごろですかね、私は台湾の高雄基地から比島への転進を命ぜられ、マバラカットに降り立ちました。そこで、竹部少尉と出会ったのです。もし、竹部少尉と出会ってなければ、私はいまここにいないでしょう。」
翻訳に時間をかけるために,言葉を区切りながら新谷は喋った。
「あなた方も,知っているとは思いますが、当時の日本は戦争をしていました。様々な見方があるかもしれない、そのことは、歴史家の研究に任せればよいと思います。有ったことはなかったことにはできないのです。」
新谷は遠くを見るような目で語った。
孝二は、戦争の責任だとか、歴史認識でしかないが、リアルで経験した人たちには言い知れぬ言葉の重みがあった。
「そのころは、南方前線が瓦解しており、最後の防衛ラインを比島に引いていました。比島が陥落すれば、日本の敗戦は確実なものになります。日本海軍は、主力空母は17年6月ミドッドウエー海戦で失っており、19年6月マリアナ沖海戦で事実上の機動艦隊は壊滅し、多くの熟練パイロットも戦死しました。」
Charlotteの英訳が流れていく。Evelynは、Charlotteの言葉に耳を傾けている。
静寂な中で、雨音だけが激しさを増し屋根を叩く音が部屋にも響いた。
「神風攻撃隊と言う言葉を聞いたことがありますか。」
孝二も、Evelynもうなづいた。
「Suicide attack」
とCharlotteが訳すと、やんわりと新谷は訂正した。
「自爆攻撃じやないんだ。意志をもって攻撃したから自殺ではない。しかし戦略でもない」
孝二は、重苦しい雰囲気を感じていた。
Evelynは、なぜか真摯に聞き入っていた。
自爆攻撃という単語のを否定した、新谷言葉に、先月の9.11の映像が重なっていた。
暗い話になります。なおこの小説はフィクションですので、注釈がない限り実在しません。




