表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/31

生き抜くということ

 ルームサービスとも思えない、豪華な食事が並べられたテーブルに、竹部とEvelyn達は、座った。

軽く食膳のワインが運ばれて、食事が始まった。

竹部は、微笑みながら食事を食べるEvelyn 達を見ていた。

竹部自身は、あまり食事に手を付けていなかった。


 「食べないんですか?」


 とEvelynが尋ねると、ワインを飲みながら


 「年を取ると、食が細くなってね」


 と言った。


 和やかに、食事が終わると竹部と対面にEvelyn 達は座った。


 おもむろに、竹部は語りだした。


 「Saraは、結婚しなかったのかい。」


 とEvelynの方を向いて、竹部は訊ねた。


 「ええ、母を女でひとりで育てました。結婚しませんでした。」


 「どうして、あんなに綺麗な女性をほかの男がほってはおかないだろうに」


 孫のEvelynからみても、祖母は十分に美しいと思っていた。

昔の写真などは、息を飲むくらいだ。


 「竹部さんは、結婚したのですか」


 「いいや、書類上で結婚したことになっているが、実際はしていない。」


 「えっ それってどういうことですか。」


 竹部は、話すかどうかを迷っているようだった。


 「まさか、お母さんが言っていた。戦争の時に助けてくれたのって」


 Evelynは、母親の話を思い出していた。


 「そうか、イシダは約束を守ってくれたのか」


 と竹部は言った。


 Evelyn は、疑問を竹部にぶつけた。


 「母は、戦後の祖母との生活が誰かに守られていたといっていました。それって、どういうことなんてですか」


 「Evelynさん、申し訳ないが言えないこともある。それで、SaraとMariaが助かったのであれば、その事実だけでいいのでは」


 とすこし<強い口調でいった。

それでも、Evelynはひるまずに、トートバックから、ハンカチに包まれた物を竹部に差し出した。


 「祖母が、肌身離さず持っていたものです。竹部さんがあげたものではないのですか」


 竹部は、ハンカチで包まれたものを受け取って、中身を確かめると、そのまま黙ってしまった。


 窓から、かすかにビートの聞いた音楽が流れ込んできた。


 すると、いままで黙っていた。孝二が、日本語で何かを竹部に向かって話していたがよく意味が分からなかった。なにか、説得するように話しているのだけは、口調で分かった。


 「それでも、話せることと話せないことがある。申し訳ないが、それは理解してほしい。そうしなければ、あなた達の身の安全も保証できない。」


 竹部は、苦しそうに話した。


 「祖母は、そのべっ甲の櫛を見ながら時々泣いていたそうです。それでも、竹部さんは何も話してはくれないんですか。」


 Evelynは、竹部に詰め寄った。


 竹部は、べっ甲の櫛を見ながら


 「Saraを助けるには、ああする以外に方法はなかったんだ。」


 といった。


 Evelynは、竹部の絞り出すような言葉に、はっとして


 「ごめんなさい。つい 」


 と謝った。


 竹部は、カウンターバーまで、いくとウイスキーとブランデーを注いで、Evelyn と孝二の前に置いた。


 「少し、飲んだ方がいい。落ち着くよ」


 と竹部は言って、グラスを勧めた。


 Evelynはブランデーを飲んだ。


 「Saraの思いなんだろうと思う。こうして、Saraの孫と合えたのは、それと、新谷少尉の思い。誰にも話さずに、あの世というところでSaraに逢うことが出来たら、話そうと持っていたけれども、これを見せられると、話さざるをえないな。」


 といって、竹部は、グラスの中のウイスキーをあおった。


 「この櫛は、Saraに私が贈ったものなんだよ。私は、Sara達の身の安全を保証する約束で、アメリカ軍の諜報員となった。ありていに言えば、祖国を裏切った自分の愛する女のために。人間としては正しいのかもしれないが、帝国軍人としてはあるまじき行為だ。それでも、あの戦争の中で、人殺しをするなかで、守りたいものがあった。」


 「それじゃ、やっぱり、貴方が祖母を助けたのですか」


 竹部はうなづいた。


 「あの戦争で、絶対防衛ラインのフイリピンで最後の抗戦で、講和に持ち込むつもりが、裏目に出た、日本は、やむに已まれない状況に追い込まれた。私も、新谷少尉も本当の意味で戦うことへの疑問を持っていた。そんな時に、Saraに出会った。本当にきれいな女性だった。私は、生まれて初めて恋をしたんだ。貧乏小作人の三男が、腹いっぱい飯を食べたくて、軍隊に入った。好きな空を飛ぶことができた。それだけでよかったんだ。飛行機乗りだ、いつかは必ず落とされて死ぬ。相手撃った弾は、必ず自分にも帰ってくることは分かっていた。死にたくない、生きてSaraに逢いたいという気持ちだけが、私の中で大きくなっていった。」


 竹部は、一気に話すと、Evelyn ににっこりと笑いかけた。


 「いい歳をした爺が、昔の恋を話すのは滑稽なのはわかっている。しかし、あの時代は、人の死が軽いんだ。みんな、死ぬことを受け入れながら生きていたんだ。生きながら死んでいるのと同じだった。Saraの笑顔がしぐさが、私にはまぶしかった。Mariaの無邪気さが私には、とても大切で、守りたいと思ったんだ。ただそれが、日本人でないもだっただけだ。多くの日本人は、私と同じ思いだったはすだ。」


 Evelynは、竹部の独白にどこか懐かしさを覚えていた。そう、祖母が昔話をしていたときの雰囲気に似ていた。


 「だから、アメリカの諜報員として、仏印にいった。イシダという日系2世が、Sara達の安全と生活の保障をしてくれると約束してくれた。だから、便宜上日系2世として私とSaraは書類上結婚したことにしんだ。そうすれば、軍はSara達を守れるから」


 「それじゃ、祖母はそのことを」


 「知らなかったと思う。イシダがすべて段取りしたことだ。私が、任務中に死亡すればいくばくの金がSaraに行くようにもしてくれていた。」


 Evelyn は、すべての疑問が解けた気がした。

母が、語ってくれたことは、事実で、竹部が祖母や母を守ってくれていたのだ


 「竹部さん、やっぱりあなただったんですね。祖母たちの生活を助けていてくれたのは、祖母はそのおかげて、あの時代を生き抜いてこれたんです。そして、今の私という存在もあるんです」


 「すまなかった。私はSaraに自分の思いを伝えることができなかった。しかし、こうして、Saraと生き写しのような、あなたという人に出会えて感謝している。」


 Eveltn はゆっくりと首を横にふった。


 「いいえ、祖母は知っていたと思います.竹部さんの思いも、竹部さんが自分たちを見守っていたことも、竹部さん、そのべっ甲の櫛をよく見てください。」


 竹部は、古くなって飴色が濃くなったべっ甲の櫛をまじまじと見つめた。


 「その櫛には、T.Sと刻まれています。おそらく Takebe.Sara の意味だと思います。祖母は生涯あなたたけの女性であるうとしたのだと思います。」


 竹部は、薄くなってイニシャルの文字を指で愛おしそうに何度も何度もなぞっていた。


 半世紀近く時を経て、別れ別れになった恋人同士が巡り合えたような光景だった。


 Evelynは、櫛を撫でている竹部の姿に向かってつぶやいた。


 「Was long; at last was able to meet。(長かったね、やっと逢えたね」


 

 と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ