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I miss you,

 朝早く、通りをけたたましく走るジプニーのエンジン音で目が覚めた。

昨日も十分に眠れなかった。


 今日は、土曜日なのでオフィスでの仕事はなかった。


 Evelynは、ベッドから起き上がるとカーテンを開けた。


 南国特有の熱気をはらんだ風が、へやに入ってきた。

どこかのFMラジオのDJが、陽気に曲の紹介をしていた。

流行りの歌が流れていた。


 2階のベッドルームから降りて,キッチンへ行くと,メイドのリガイアがコーヒーを入れていた。


 「そろそろ、起きていらっしゃると思いましたので」


といって、カウンターにコーヒーカップを置いた。

リガイアは,Evelynが小さいころから,この家で住み込みで働いていた。

年は,50歳を過ぎていて、二人の子供を両親に預けている。なんでも、女癖のわるい亭主に愛想をつかして、離婚したそうだ。

リガイアは,カレッジを出ており、教養もあり何より容姿が整っていた。

とても,50代とは見えない容姿は,ほかの使用人にも人気で,若いころはよく手紙を貰っていた。

彼女の話では、父親の母親が日本人らしく、彼女の白い肌は、欧米人とは違う色合いをもち,漆黒の黒髪と切れ長の目元は,どことなくエキセントリックな風合いを漂わせていた。


 「リガイア、アスピリンはある。」


 「飲みすぎですか」


 「そうではないわ、頭痛が少しするの」


 「わかりました,すぐにお持ちします」


と彼女はいって、別の部屋にいった。

Evelynは、ミルクの入ったコーヒーを飲みながら、溜息をついた。


 昨日のJericho との電話で、Evelynは、落ち込んでいた。

必死に、ゴシップの内容を否定していたが、周りのおせっかいな友達からは、聞くに耐えない話をさんざん聞かされていた。

 Jericho は,Evelynのステディだ。

もう何年もそんな関係が続いている。

Jericho はEvelynより、3つ上だ。長身で甘いマスクを持ち,センスもユーモアもある大人の男性で、大手財閥の御曹司とくればもてないわけがない。


かといって,Evelynが身分不相応なわけでもない。

抜群のスタイルと整った顔立ちは、Jericho ととてもお似合いのカップルだと言われていた。


 カトリックの国とはいえ,なぜかおおらかな気質は男にとっては、居心地がよいらしい。


 リガイアが,グラスに水とアスピリンを持ってきた。


 アスピリンを薬で流し込むと,溜息が出た


 「お嬢さま、Jericho さまのことは,一時の麻疹のようなものです,気になさらずとも」


 「分かっているわ、ハイスクールの恋愛じゃないんだから、ただうんざり来るのよ、外からの雑音が」


 といって,Evelynは、長い髪をかき上げた。


 「お嬢さま、すこし落ち着かれてください」


といって,リガイアはEvelynを椅子に腰かけさせると,寝癖のくいた髪をすき始めた。

Evelynは、小さいころからリガイアにこうして,髪をすいてもらうのが大好きだった。

両親ともに働いていており、一人っ子のEvelynは,リガイアが母親がわりといってもよかった。


気持ちも落ち着いてきた。


 「ママは,今日も仕事?」


 「旦那さまと、どこかのパーティにお呼ばれだといっていました」


 「ああ、イレクション(選挙)が近いものね」


とEvelynはうなづいた。

何処の国でも、選挙がすきなのだ。

財をてに入れたものは,次は権力を欲する。

歴史が教えてくれる。


 Evelynの母親のMariaは,祖母が興したレストランを国内でチェーン化させて,それなりに規模になっていた。そこまでの成長には,母親の並みならぬ努力があったとEvelynは母親の仕事を手伝いながらそう思った。

パートナーの父親と結婚したのは,30歳を過ぎてからで、子供はEvelynだけだった。

だからといって,Evelynを後継者だと認識していなかった。

Jericho との婚約も、先方からの申出であり、決してMariaは強制しなかった。

Evelynもそんな母親に憧れていたし、Jericho はステディとしては,申し分なかった。

 

 そんな中で,祖母のSaraから、日本への留学を勧められた。

Evelyn的には,結婚前に羽を伸ばせるという意味で、日本への留学を決めた。

だだし、祖母からお願いがあった。


 "竹部 明憲"という日本人を探してほしいということだった。


それ以上の多くを語らないままに、日本への留学を前に祖母は他界して,手紙が託された。


 その手紙は,祖母の竹部という日本人への、思いの詰まったものだった。

Evelynは、その手紙を読んで,一人の人を思続けることの切なさと,その崇高な精神に胸をつかれた。


 人は,時を超えてでも思い続けることができるのだと知った。


 Jericho と、いずれ結婚するんだと、婚約してから漠然と考えていた自分が,祖母の手紙を読んであさましく思えた。


 「お嬢さま、人生は長いんですよ。ゆっくりと考えたらいいんですよ」


 と、リガイアがベビーオイルで、Evelynの髪の癖をとりながらいった。


 「そうなのかもね、マリッジブルーなのかな」


 「そうかもしれませんね。わたしの人生これでいいのかなって思う時かもしれませんね」


 といって、リガイアは,ピンクのリボンを取り出して、Evelynの髪を結ぼうとした


 「NO リガイア、リボンは卒業」


 「あら,残念、可愛いいのに」


とリガイアは笑っていた。


 Evelynは,朝食をとると,再び部屋に戻った。

すこし,頭痛がしていのでベッドに横になっていた。


昨夜の睡眠不足から,うつらうつらしていると,ドアのノックする音がした。


 「お嬢さま、お客さまです」


 「誰」


 「koujiといっています.チャイニーズでしょうか」


 Evelynは、驚いた


 「孝二といったの」


 「ええ,守衛が門のところで止めていますが,お知合いですか」


 「クラスメートよ,日本の大学の、すぐに着替えるから リビングに案内しておいて」


 「かしこまりました」


 とリガイアが出ていくと、急いでEvelynは、白のワンピースに着がえて、大慌てメイクをした。


 ほんの数日前に、メールをしたばかりなのに,2000km以上の距離をまさに飛んできたのだ。


 動揺が激しかった。


 鏡の中のEvelynは、なぜか嬉々とした表情を映しだしていた。


 急いで,階段を下りてリビングに行くと、ほんの数年しか経っていないのに、孝二は大人の男性になっていたが,Evelynは、孝二のいでたちに怪訝な顔をした。


 孝二の格好は,こちらの青年の格好、いやかなり下層の格好をしていた。


 「コウジ ソノ カッコウハ」


 「If it is this, I do not have to worry to match a robber」(これなら泥棒に逢う心配はないだろう)


 と流暢な英語で孝二はいった。


 孝二の格好は、下はビーチサンダル、擦り切れたジーンズ、上は派手なTシャツに、メッセンジャーバックだった。


 「どうしたの,その恰好は」


とEvelynは英語で聞いた.


 「Smマートで買ってみた,背広なんて来てたらたかられそうだろ。」


 Evelynも納得がいった、リガイアがチャイニーズといった意味が,とても日本人には見えなかった。


 「休みが取れたから,遊びに来てみたよ,元気だった Evelyn」


 といった,瞬間Evelynは、孝二に抱き着いていた。


 ふい食らった、孝二は抱きとめると、Evelynの背中をポンポンとたたくと


 「暑苦しから,かんべんな」


 といって笑った。Evelynもつられて笑った。


 横では、リガイアが、意味深に微笑んでいた。


 Evelynは驚きと,感動で胸が一杯になった。


 孝二の突然の訪問は,ふさぎ込んでいたEvelynの気持ちを和やかにし、日本の留学時代を呼び覚ました。


 「孝二、まずは服を買いに行きましょう。リガイア 車の手配をして」


 というと、リガイアはにっこりとして、ガレージの運転手を呼びに行った。


 孝二はやれやれといった表情をしていた。


 Evelynは、孝二に向かって


 「I miss you」


 と言った。


 



 

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