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漂流

 竹部の上方で、高射砲が炸裂した。


 すぐ下の爆装した零戦かよたよたと飛んでいた。

回避行動をとれる余裕はない、F6fをやり過ごして、弾幕の中に入ったがとても降下して、突っ込む機会がとれなかった。

今は、時限信管の高射砲の弾だか、いずれ船団の中心にいる空母に近づけば近接信管のVTでの射撃が始まるはずだ。 なんとか、3機の直援機で、5機の爆装零戦の内3機までを敵艦隊上空まで誘導したが、直援の2機も落とされて、竹部だけとなった。

竹部は戦果確認を任を帯びていたので、爆装零戦に向かってバンクして、上空へ上昇した。


 爆装零戦は、弾幕の中を高度を上げて垂直に近い角度で、護衛空母へ突入した。

途中で、40mm機関砲なとで、1機が火だるまで海上へ墜落したが、残る2機は護衛空母の甲板と艦橋付近へ激突して、空母を大破させた。


 竹部は、状況を確認すると全力で戦域を離脱をした。


ピケットライン外で、F6Fの待ち伏せにあったが、近接戦に持ち込んで、1機を撃墜したところで、後ろにつかれて、左翼に被弾したが燃料タンクでなかったため、発火しなかった。

フラップの油圧がやられたため、操縦竿が非常に重くなり、降下して撃墜されたふりをした。


相手も、深追いはしなかった。


ルソン島が、見えてきたがフラップがいかれている以上、着陸は困難と思えたが、発動機に異常がないため海面すれすれを飛んで、レガスピの飛行場への緊急着陸を試みた。


操縦が不安定となり、ついには、海岸に近い海上へ不時着した。


直ぐに機が沈み始めたため、岸に向かって。泳いだ。

やっとのことで、海岸にたどり着いた。


すこし、休んでいると。人の気配がした。

竹部は、拳銃を手にした。

海中に没したため、うまく打てるか自信が無かったが、となにかく構えた。


 最近は、米軍の援助を受けたゲリラがマニラ近郊に潜伏しているとの情報を得ていた。残忍な方法での日本兵を殺すと恐れられていた。


竹部は、最後かと思った。


やはり、ゲリラだった。10数人で、竹部の回りを取り囲み始めた。


手には、鉈をもったりライフルを持ったりしていた。


此処で撃ちあっても、勝ち目がないとか観念した。竹部は拳銃を放り投げて、両手をあげた。


恐る恐る、ゲリラは近づいてきて、しぐさで竹部にひざまずけといっているようだったので、ひざまづいた。

ひざまづくと、後ろから蹴飛ばされて腕を捩じ上げられて、ロープで両手を後ろ手に縛られた。

ロープを引き上げて、立たせるとライフルを持った男が、短くライフルの先でこずいた。

どうやら歩けと言っているようだった。

竹部は、促されるままに歩いた。

どうやら、直ぐには殺さないらしい。

しばらく歩かされて、一軒の民家に入っていった。

座れた促されて床に胡坐をかいて座った。

中には、軍服をきた正規の軍人らしい男がいた。


その男が、流暢な日本語で、竹部に語り掛けた。


「大変な思いをされましたね」


といって、つけてきたゲリラを目配せをすると、竹部の手を縛っていたロープを解いた。

竹部は、あっけに取られていた。

顔立ちは、日本人に似ていたが生粋の日本人というわけではないようだった。


「あなたの名前をお聞かせ願いたい」


と男が言ったが、戦陣訓の教え通り黙っていた.


「戦陣訓ですか、ここでは役に立たないと思いますよ。あなたはパイロットでしょう、その服装でわかります。最近、変わった戦法をされていますね。敵艦に体当たりとか、狂ってますね。そこまでして戦わねばならないのですか」


竹部は、それでも何も答えなかった。

男は尋問になれているのか、余裕の表情で喋りつづけた。

男は、竹部に近づき飛行服に書かれた名前を指さして


「竹部 明憲 飛行兵曹長 ですか。」


竹部は、相手をにらみ返した。それでも男は余裕を見せていた。


「たっぷり時間はあります。」


といって、ソファーに座った。

シガーに火をつけると、くゆらせながら


「どちらの基地の所属ですか」


と訊いてきたが、竹部は答えなかった。


「ダバオやセブではないないですね、クラーク方面ですか」


竹部は目を伏せた。


「やっぱり、クラーク基地方面ですね。体当たり攻撃の隊員ですか」


と男はたくみな誘導尋問をかけてきた。

竹部は、場慣れしていると感じた。

遅かれ早かれ、竹部が重要な情報をもっていないことが知られるとおもった。


「俺は、ちがう戦闘機のりだ」


と竹部は顔を上げていった。


「協力してもらえませんか。命の保証はしますよ」


「保証はいらない。俺は士官ではないので作戦事項は何も知らない」


「そうですか、それではあなたが知っていることを話してください」


男は、ゲリラに椅子と飲み物を持ってこさせた。


「毒は入っていませんから飲んでください」


竹部はやけになって、持ってきた飲み物を飲み干した。

ただの水だった。

一息ついた。


「あなたの部隊の戦力について、教えてもらえませんか。そう航空機の数や兵員について」


竹部は答えなかった。

男は、シガーをくゆらせた。


「もう満足に。飛べるものはないのでしょう。私たちの情報では、フィリピンに投入した航空機の約500機近くの大半を損失してのでしょう」


竹部も正確な数字は知らなったが、それくらいの損失をだしていることは薄々知っていた。

たしかに、まともに飛べる飛行機はなかった。

局地戦闘機の新型の紫電まで投入しているのだ。


「そうかも知れないが、下っ端の自分には正確な数字はわからない」


「そうですか、ではあなたには真実をしってもらいたい。フィリピンでの戦闘はもうすぐ終わります。あなた方は無駄な戦闘を避けてはどうですか」


竹部は、うっすらと笑いを浮かべて


「上が勝手に始めた戦争だ。俺なんかにいうよりも、始めた上の奴らにいったらどうだ」


「いっても、聞かないでしょう。彼らは戦場にでてこない。机の上で人形に見立てた兵士を動かしているにすきない、チェスですか、日本でいえば将棋をしているにすぎない」


「俺は軍人だ。軍人の仕事は戦うことだ。それに対しての理由はいらない。」


「立派なことで、あなたは士官ではないのですね。あなたの年齢からいって現場のたたき上げだといってもいいのでしょうね。そうすると、あなたを捕虜にすることで、貴重なベテランのパイロット戦力がそがれることになる。それでいいと私は考えます」


男は、ゲリラに英語でなにか話した。


ゲリラは、後ろから竹部を椅子から蹴り落して、再びロープで両手を縛り、隣の小部屋に連行した。

3畳くらいの物置のような場所につけていかれて監禁された。

まだ、処刑はされないようだった。

待遇はよかった.

3度の食事と睡眠の時間は与えられた。


日に何度か、あの男との会話がなされた。

世間話と軍事に関係のないことでの会話は少しずつ増えていった.

男は、ハワイ出身の日系2世で、現地人母親と日本人とのハーフということだった。


やんわりと、内部協力者にならないかと誘われたが、竹部は頑として受け入れなかった。


「あなたも、頑固な人ですね。」


「出来ないことは、できない」


男は、溜息をついて


「レイテは、陥落しました。もうすぐルソン島にも進軍してきます。私はあなたを捕虜として、米軍に渡します。」


「勝手にすればいい。どうせ何も知らないし。銃殺でもなんでもしたらいい」


と竹部は開き直った。


「どうすれば、協力してもらえますか」


「帝国軍人である以上、協力はできない」


「軍人でないあなたとしたら、」


と男は不思議な問いかけをしてきた。


「無事に無傷で開放しますよ」


とにやりと笑いかけた。


「取引をしましょう。あなたの望みをかなえる代わりに、私の望みもかなえてもらいたい」


竹部は困惑の顔をした。

数日話をしたこの男、食えない奴だが、相手を騙すということはしなかった.

必要な情報は、最低限ではあるが、与えて判断を揺るがせていた。


「話だけでも、聞いていただけませんか」


竹部は、肯定も否定もしなかった


そんな竹部の心境を知ってか


「仏印へ行ってもらいたい」


竹部は唖然とした。一介の戦闘機乗りに防諜の片棒を担がせようとするのだ


「行って、どうするんだ」


「情報を集めてくれればいい」


「国を売ることはしない」


「日本情報ではない」


訝しがる、竹部に


「現在、仏印は日本の統治下にある。そこで、ソビエトいやロシアと言った方がわかるかな、その情報を集めてほしい。」


「なぜ ロ助の情報を集める」


「知る必要はない」


竹部は考えあぐねた。このままでは捕虜とて辱めをうける。

ここは、話に乗ったふりで抜け出すのも手である。


「俺がその話を引き受けたら、何をしてくれるんだ」


「わたしの権限でできることならば゛なんなりと」


と男は言ってのけた。

竹部はホケットにあるロザリオに手を触れた。


「民間人を保護してもらいたい」


「ほほ どこにいるひとかな」


と男は、興味深げにいった。


「パンガシナン州のアラミノスにいる人間だ」


男は、気色ばんだ


「無理だ、あそこもうすぐ戦場になる」


「それが条件だ。それにその民間人は、米国軍人の家族だ」


男はうなった.自国の家族の救出を言いだされては、返事のしようがない


「分かった。全力を尽くしてみよう」


「その民間人の無事が確認されたら、俺も約束を守る」


と竹部はいった。

この理不尽な戦争の中で、竹部は自分の周り人を守りたかった。

せいぜい自分にできるのは、目に見える範囲人だけだ。


さらに、数日がすきで、12月の暮れになったころ


「竹部、民間人は我々の仲間が保護して安全な場所な場所にいる」


「証拠は」


男は、写真を見せた。


SaraとMariaとSaraの母親が、写った写真だった。


「随分ときれいな女性だな、恋人か」


「いや、俺の死んだ妹にmariaっていう子が似ている気がするだけだ」


「そうか、彼女達は米軍の保護下にある、しかしあんたが約束をたがえればどうなるかは保証しない」


「分かっている」


竹部は覚悟を決めた。

新谷も無事に帰還したことを見納めている

SaraもMariaも無事た。

自分は戦死したことになり、2階級特進で、報奨金と恩給で家族も立ち行くだろうと思った。


どうせ、特攻で散らす命だ。

どこで死んでもよかった。

竹部は、Sara達の写真を受け取ると、ホケットにしまった。



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