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迷い

 新谷が亡くなってから、Evelynはややふさぎ込んでしまった。

以前のような活発な言動はなくなった。

大学にいっても、 ボーとしていることが多くなった。

孝二が何か尋ねても生返事だった。

時々、 Charotteさんのところにいっているようだった。

 

 孝二にとっても、新谷との出会いは衝撃的だった。自分の年代に戦闘機に乗って、命のやり取りをしていたなど想像もつかなかった。

それでも、それは非現実的な出来事のように思えた。


2001年も21世紀初めの年も静かな暮れようとしていた。


大晦日の夜に、 孝二はEvelynを初詣に誘った。

南国から来ていたEvelynは寒さに驚きながら、ダウンのジャケットを来て、ニットの帽子をかぶってついてきた。スラリとした姿に道行く人も振り返って見ていた。


 「最近 元気ないね」


と孝二がたずねると


 「ダイジョウブ」


と答えたが、その声にも元気が無かった。

除夜の鐘がなり、2002年になった。


年賀の言葉をお互いに口にして、神社に礼拝した。


人ごみに押されながら、すこし散歩して帰った。

空は澄み渡り、冬の星空が頭上に瞬いていた。


 「Evelyn、 なにか悩みごとでもあるの」


 evelyn は星がよく見える高台の公園のブランコに腰かけて、すこしブランコを揺らしながら


 「ワカラナイ、ナゼ グランマハ マチツヅケルコトガデキタノカ」


 とつぶやいた。

竹部という異国の男性を、一生をかけて待ち続けた、祖母の行動が理解できなかった。


 「グランマハ トテモ キレイナ ヒト。タクサンノヒトガ グランマニケッコンヲモウシコンダト キイタ」


竹部と新谷たちと打ったセピアの写真のEvelynの祖母は、 とてもきれいな女性だった。その孫のEvelynを見ればそれはよくわかる。


 「コウジ ワタシ フィアンセ ガイル」


 「ああ、最初に釘をさされた、彼氏がいると」


 「カレハ ヤサシイ ワタシヲ アイシテクレテイルノ ヨク ワカル」


 Evelynの彼氏は、これまた財閥の御曹司 申し分のない家柄だ。だれもか゜祝福するだろう。

マリッジブルーかと孝二は思った。

Evelynは確かに、 お姫様気質がある。

それは育った環境が違うからだ。疑うことなく生きてきた人間だ。

天真爛漫という言葉が、 よく似あった。

そこにきて、半世紀前の現実を突き付けられたのだ。迷わない方がおかしい。


 「随分と昔のことじゃないか、Evelynが気にすることではないよ」


 「No!I read the letter of My grandmother(祖母の手紙を読んだ)」


 Evelynは興奮すると、英語になる。孝二も何とか聞き取ることができた。


 「何が書いてあったの」


 「Feeling of very many thanks(たくさんの感謝の気持ち)、Loneliness not to be able to meet a dear person(愛しい人に逢えない気持ち)」


  Evelynは深いため息をついて、星空を見上げた。


 「I thought that it was what a deep love.(なんて深い愛だと思った)I cannot do it(私にはできない)」


 孝二は何も言えなかった。そんなに深くを人を好きになったことはなかったし、ストレートに感情を吐露されても受け止めるには、重すぎた。その重みでEvelynは、ふさぎ込んでいたのだと分かった。


 「あのさ、よくわかんないけれども、あの時代だからこそ、 芽生えた思いじゃないのかな。生きると死ぬことが同意義な時代だからこそ、思いが深かったんじゃないのかな」


 「ソウカモネ」


 とEvelynは落ち着いたのか、日本語で答えた。


 「コウジ ワタシハ タケベガ イキテイルヨウナ キガスル。キット アエルキガスル。」


 孝二は、Evelenの祖母の手紙にどのようなことが書かれていてのか知る由もなかったが、 ここまでEvelenに考えさせるほどの内容だったのかと、 感心していた。


新谷の言った "人の思いは時を超える"という言葉の意味が、分かった気がした。


半世紀をへても、なお、 人を思い悩ませるほど人の思いは強いと知った。


 Evelynはさっきまでの沈んだ態度とは打って変わって、大きく背伸びすると


 「カエッテ オソバヲタベヨ」


と言って、歩き出した。

孝二は、立ち直りもラテン気質かと苦笑いした。


年が明けても、9.11事件の余波で、世界は戦争へと突き進んでいた。

勝者も敗者もいない、犠牲者だけが増えていく戦闘が、 中東を中心に起き、テロリズムが世界に吹き荒れ、日本でも不審物に神経をとがらせた。


すこしづつ、 Evelynは、元気になり以前のスタイルに戻っていった。


それでも、 時々はCharlotteさんのところに行って話し込んでいるようだった。


そうこうしているうちに、Evelynの留学の期間が終わりに近づいており、学校内ではお別れ会やらなんやで結構忙しくなっていった。


Evelynのフィールドワークも完ぺきではないが、 新谷という竹部を知る人物にも出会え、祖母のことも知った。それだけでも十分な成果だと思っているようだった。


 いよいよ、Evelynが明日立つという時に、孝二はEvelynに食事に誘われた。


 ドレスコードのあるレストランだった。

もちろんEvelynも正装していた。

正装したEvelynはとても、きれいで店の中でも特別に神々しさを見せていた。


 「結構照れるね。場違いみたい」


 「ソンナコトナイ コウジニハ タクサン オセワニナッタ ソノ オレイ」


 微笑んで、グラスにシャンパンを注いだ。

他愛もない思い出話をして、ホテルのバーで飲みなおしをした。


誰もが、 Evelynに注目していた。

そりゃモデル級の外国人がいれば目立つ。


 「帰ったらどうするの。」


 「チチノ カイシヤデハタライテ ソレカラ ケッコンスル」


 「彼と」

 

 「ソウ カレトノ ツキアイ ナガイ」


 Evelynは、ショートカクテルを口に運びながらつぶやいた。


 孝二は、 財閥には財閥の事情があるんだなと思った。


 「コウジ ソツギヨウシタラ ナニスルノ」


 「平凡なサラ―リーマンになって、 平凡な家庭を作る」


 「イイナー ソンナフウナノ」


 Evelynは、髪をかき上げてカウンターに頬杖をついた。


 「グランマ ミタイニ フカク ダレカヲ スキニナルナンテ ステキ」


「嫌なのか 結婚するのが」


 Evelynはくびを振った。


 「ソンナンジヤナイ タダ グランマガ ウラヤマシイ She took life and continued yearning only for the person of the person(一生をかけてひとりひとだけを思い続けた)」


 「そうだね、Evelynのおばあさんに、思われた竹部というひとはきっと、 幸せだね」


 と孝二がいうと、Evelynもうなづいていた。


 「新谷さんが、"人の思いは時を超える"といっただろう。きっとSaraさんもそういう気持ちだったんだと思うよ。」


 「The thought of the person is over time、 」


 「いつか、分かるときがEvelynにもくるさ」


 「ウウン」


といって、 グラスの液体を飲み干した。


 しばらく黙って、Evelynと飲んでいたが、明日のことを考えて、バーを出てタクシーに乗った。

家の前で、タクシーを降りると裏にあるアパートまで送っていった。


 「じゃあ 明日は空港までおくるから」


と孝二がいうと、 Evelynが孝二に抱き着いてきた。


 甘い香水の匂いがした。


 「辛いんだね、おばあさんの思いの前に自分の立ち位置がわからなくなってるんだね」


 Evelynは何も答えなかった。


 「I read a letter over and over again. But it was not able to be understood.(手紙を何度も読んだけれど理解できなかった)I had a question toward My life(自分の人生に疑問を持った)」


 「Nobody knows the future(未来は誰も知らない)Life can only be understood backwards; but it must be lived forwards.(人は後ろ向きにしか理解できないが、前に進むしかない)」


 と孝二は、 偉人の言葉を借りて答えた


 Evelynは、孝二から離れた。


 「ワタシモ ソウ オモウ」


と弱弱しく笑った。


 「おやすみ」


 といって、 孝二は踵を返した.


 「Good night」


と優しい声が響いた。






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