男と少女①
「――ったく、まじ怖えぇ」
男はそう愚痴りながら只々前へ走る。
辺りには街灯はなく、只々暗闇がはびこり人っ子一人いない状態だ。
そのくせ男は走っておりまるで何かから逃げているようだった。
男はしばらく進んで見つけた角で曲がって、今来た道から体を隠して時間を確認した。
時計が指している時刻は22:20。
予定の時間までは残り約120秒、目的の場所まではあとわずか。
「――っ、な、何とか予定通りにいきそうだ……」
男は、ここまで来れば大丈夫と大きく息を吐いてひと安心してから肩を上下させ呼吸を整える。
改めて深呼吸をし、乱れた脈と心機能を安定させて準備万端だと気合を入れようとしたその瞬間――。
突如、男が隠れていたその角に「ドンッ!」と鈍い衝撃が走る。
「うわっ!?」
男は意図していないタイミングと意図していない衝撃により体制を崩し、情けない声をあげて前のめりに倒れた。
「グルルル」
男の後ろからそんな獣のようなうめき声が響く。
時刻は22:21――。
手と膝をついている前かがみの状態から男は首だけを左側にぐるりと回すと、そこには暗闇に浮かぶ黄色くおどろおどろしく光る一対の瞳、そして只唯一の明かりである月の光を反射し怪しく輝くその大きな爪、推定50センチである。そして少し背中が丸まっている約2mの怪物がそこにいた。
人と怪物の目がピタリと合う。
一方は逃亡者として、一方は捕食者として。
男には数時間と思える時間、怪物には一瞬と感じる時間。
男は死を感じた。
だがしかし、それを上回る恐怖に対し反射的にコートの中から銃を取り出し狙いもほどほどに引き金を引いた――。
だが、引き金を引いたことにより発生するはずの銃声はなぜかしなかった。
「えっ、嘘だろっ!?」
カチリ、カチリと男の引き金は何かに当たった軽い金属音を出していた。
「マズった、セーフティーが…」
その時、やばいまずった、セーフティ外さないと殺されてしまうと、男は思った。
がしかし怪物は待ってくれるはずはなく迫ってくる怪物、近づく死という概念。
恐怖は焦りを呼びそして急速それを高めていく。
男はその恐怖のせいかセーフティがかかっていることを理解しながらもただひたすらに引き金を引く。
「くそっくそがぁぁぁ!!」
「グォォォオオォ」
男の叫びにこたえるように怪物がその大口を開いて啼いた。
時刻は22:22―――。