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死闘  作者: みずっち
4/5

第4話

『ようお前ら、待たせたな』

頭に直接響く声は聞き覚えが有った。五人が待ち焦がれていた相手の連絡(テレパシー)だった。

同時に五人も繋がった。

「遅いですよお師匠様!」

『わりぃわりぃ、ちょっと手間取ってよ』

プリプリと頬を膨らませる弟子(アリス)に対し、師匠(ネヴィル)は悪びれた様子も無くあっけらかんと謝る。

相変わらず飄々とした人だ。

「首尾は?」

『上々だ。穴は塞いだよ。後は外の連中をすり潰すだけだ』

返答を聞いたシルヴェスターはふっと口角を歪めた。

「よっしゃきたああああああああああああああ!!!!」

「血が滾るねぇ!」

「おい二人とも、気持ちは分かるが落ち着け」

案の定だ。シルヴェスターだけ離れた所に居るが、表情が手に取る様に分かる。

流石、体力自慢(脳筋)の三人である。

宥めるベルクも、口調などからテンションが上がり気味だ。

無期限の『防衛』から、今地上に居る魔物達を倒し切れば終わると言う『殲滅』に目標が変わり、分かり易くなったのだ。

『それでな、今姫さんの隣に居るんだけどよ』

「お師匠様、まさか手出して無いでしょうね?」

『俺、お前にどんな印象持たれてんだよ』

「綺麗な女性には見境が無い、です」

『うわー、へこむわー』

アリスの即答にロンもサラもケタケタと笑い、ベルクは苦笑いしている。当然、敵を屠りながらだが。

「老師、まさか姫に魔力を…」

『あぁ、その通りだ。賭けだったがな』

「また無謀な事を」

シルヴェスターは溜息を吐いた。

三日間完徹し、四日目に突入したエリシールに、これほどの無茶をさせるとは。

戦闘の最中(さなか)、エリシールの張った結界が変質した。それも急激に。

大体の想像は着いたが、やはりそうだったか。

彼の目には、エリシールのみの青系では無く、ネヴィルの魔力が混ざって紅色に見えているのだ。

しかも、最外部と湖の中ほどの二つを除き、内側の六つの結界が解除されている。

恐らく余剰魔力を攻撃に()ぎ込むのだろう。ならばやる事は一つだ。


「三人とも下がって下さい!」

「えっ?」

アリスが気付いたらしい。シルヴェスターより先に叫んだ。

内側の結界に退避しなければ、外の魔物達と共に浄化されてしまう。

魔物相手の結界ならば人間には効かないだろうが、念のためだ。

フェニックスとドラゴンを虚空に返したアリスは、ゴーレムに三人を乗せ、後ろの結界の中に退避した。

シルヴェスターも退避し、ゴーレム達を土に返す。

五人が退却し、空いたスペースに魔物の群れが殺到する。

密度が濃く高く増した集団はしかし、大きさが圧縮され、最外部の半径が小さくなった。

それを見越した様に地面が光り出した。

それまで有った結界の更に数百メートル外側に、巨大な魔法陣が地面に浮かび上がる。

中心は湖上に浮かぶ島だった。

そして、新たな結界の壁が地面から競り上がって来た。

全ての魔物を囲む様に、天頂部からも結界のヴェールが垂れ下がる。

それまでと同じく半透明だが、シルヴェスターには分かった。

今までの結界とは性質が違う。

エリシールとネヴィルの魔力が渦を巻き、ドームを形成する。

魔物達がざわつくが、既に完成した結界からは出られない。

そして数秒後、地面の魔法陣が更に輝き出した。

銀色の光が辺りを包み込む。

目も眩む様な光の奔流に、人間も魔物も、外に居たあらゆる者達が目を瞑る。

次の瞬間、あらゆる方向から魔物達の断末摩が押し寄せて来た。

幾千にも及ぶ悲鳴はしかし、数分で途切れ、光も消え去った。

静寂の中、目を開けた者達はその光景に唖然となった。

あれほど居た魔物達が、数千の大軍勢が、跡形も無く綺麗さっぱり消え去っていたのだ。

ほぼ(・・)全ての魔物達が結界内に居たため、浄化されて消滅したらしい。

「こ、これは…」

「なんと…」

魔術師達は一様に言葉を失った。

ネヴィルの魔力を借りたとは言え、エリシールの結界にこれほどの威力が有るとは思わなかった。

「すげえ…」

「何千匹も居たのに…」

ロンとサラが呆然と呟く。

「うむ…これほどとは…」

「…あれは…?」

ベルクも感嘆する中、アリスが何かに気付いた。

シルヴェスターも何かを感知したらしく、湖を飛んで彼らに合流する。

「魔力が一箇所に集中してますね」

シルヴェスターの言葉に、ロン達三人も視線を向ける。

一番外側の新しい結界の更に外側、境界線ギリギリの所に、人間が一人立っていた。


否――。


人型の魔物だ。魔人と言うべきか。

深紅のコートを羽織り、片目が刀傷で塞がれている。

耳が尖っているのはやはり人間では無い証拠だろうか。

見た目は男性だが、果たして人間と同じ区別で良いのかは不明である。

その『男』が、胸の前で両手を向かい合わせ、魔力を圧縮していた。

「不味い!」

「お師匠様!」

シルヴェスターとアリスが同時に叫んだ。

ロンとサラが咄嗟に大楯を構えたベルクの後ろに隠れた。

アリスとシルヴェスターも後ろに回り込んだ後、その大楯に魔力を送り込んだ。

簡易的に結界の壁を作るためだ。

『ちっ!』

ネヴィルが舌打ちをした瞬間、魔人はニヤリと笑い、全てを解放した。


カッ――!


ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――…!


禍々しい光が辺り一帯を包み込み、地響きが王国を襲う。

暴風と光が吹き荒れ、あらゆる物を吹き飛ばす。

先ほどの新しい結界も壊れ、消え去る。

「ぐぬぁぁぁぁああああああああああ…!」

ベルクを先頭に、五人に大きな衝撃が圧し掛かった。

今まで王国を守って来た結界も最外部が割れたらしい。

真正面から襲ってきた魔力の奔流に、ベルクが絶叫しながら踏ん張る。

その背中を四人で押し支える。

永遠とも思える様な数瞬の後、五人の視界の全てを光が覆い尽くした――。

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