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企画

秘密の花園へようこそ

作者:

「ぬぅ…」

金がない。欲しい本を買う金が。

決してアドニスが小遣いを渡してくれていないのではない。ある本屋で見つけた美しい動物図鑑が欲しいのだ。実物のような鮮やかな色彩と躍動感に心を奪われてしまった。けれどもいつももらっている小遣いよりずっと高い。アドニスに頼めば買ってくれるだろうが自分の誕生日や特別な日でもないのに頼むことなんてできない

「どうすればいいんだろう…」

自分がここまで物を欲しがるのは初めての事で自分でもよくわからない気分になる。

あの本はどうしても欲しい

「そうだ!」

森の奥に花畑があるのだ。森には誰も立ち入らないので美しい花々が多く咲いている。それを街で売って金を貯めて買えばいい。我ながら名案だ

早速支度をして森へと向かう。花を入れるバケツを持って


手付かずの森の奥の、開けた場所。相変わらず美しく花々が咲き誇っていた。その中でも美しく大ぶりの花を見繕って摘んでゆく。水は近くの川で汲めばいい。

ガサッ

何かがいる。耳を立て目を凝らす。少し遠くに人がいるようだ。背丈からおそらく自分と同じくらいの子どもだ。こんな所にどうしているのだろう?土地勘のない人間は普通森には入らない。迷子だったらかわいそうだし、声を掛けてみよう

「ねぇ、君!」

「…」

返答がない。

「ねぇ君だよ!聞こえてる?」

「きみじゃないもん蜜だもん」

少年は答えた。自分よりも背は小さく、幼い。そして羽が生えている。鳥であることに今気がついた。緑色の羽に花が飾られていて美しく映えていた。目は彼の名前?のような黄色だ

「君の名前は蜜…?」

「蜜」

「蜜君はなんでここにいるの?迷子なの?」

「蜜君じゃないもん蜜だもん」

「え…あ、うん。じゃあ蜜は迷子なの?」

「迷子じゃないもん蜜だもん」

会話が成り立たない。とりあえず彼の名前は蜜だという事はわかった

「蜜はどこから来たの?」

「どっか」

「蜜は花が好きなの?」

「お花…好き。お花お花」

「羽の花、きれいだね」

「…」

彼の羽がすごくきれいだと思ったら。どんな感じなのか触ってみる。自分の醜い羽とは違う羽

触った拍子に花が1つ落ちてしまった

「むうぅ…」

「あ!ごめん!」

花を拾い元の場所に戻す

「むううぅ…!」

「じゃあこれあげる!」

さっき摘んだ花をバケツごと渡す

「お花!お花!」

喜んでくれているようだ。今度からは人の羽には触らないようにしよう

「モヒヒヒヒヒ」

蜜はニヤッと笑い、花を食べ始めた

「え…?」

「お花おいしい」

「おいしいならいっか」

おいしいと感じるものは人それぞれだ。蜜にはこれがご馳走なのだろう

「お花、もっと」

「えー!オレもう持ってないよ」

「お花…ほしい」

「じゃあ違う場所に行こっか。多分そっちの方がいいとおもう」

「モヒヒ」

蜜と一緒に歩き出す。途端蜜は転んでしまった

「蜜!大丈夫!?」

「蜜いいこ」

蜜のひざから血が出ていた。擦りむいてしまったようだ

「痛くない?」

「いたくない」

近くの川でハンカチを濡らす。蜜のひざに恐る恐るハンカチをあてる

「しみてない?」

「蜜いいこ」

痛くないようだ。近くに美しい花を見つけた

「これあげる」

「モヒヒ、お花」

蜜は嬉しそうに花を食べている。いつもと違う場所には見たこともないような美しい花が咲いていた。これを摘んで帰ろう

「蜜、そろそろ帰ろっか」

「やだ」

そう言われてもそろそろ日が暮れてしまう。暗い森の中を歩くのは危ない

「じゃあこのバケツあげるから花を摘んでいこうか」

「モヒ」

急いで花を摘んでバケツに入れる。早くしなければ。

蜜はぼうっと何かを見ている

「ほら蜜、行くよ!」

「ん」

蜜の手を引いて森の出口へと急ぐ。蜜が転んでしまわないように気をつけて

「蜜は独りで帰れるの?」

「蜜いいこ」

本当に大丈夫だろうか?

「じゃあ…また会おうね…」

「モヒ」

そういって蜜は別の道へと行ってしまった。自分も急いでかえらなければ!

砂利道を走り、畑の畦道を駆け抜ける

「ただいま!」

「おかえり、ファレノプシス」

アドニスが夕食を食べるのを待ってくれていた

「あの、ご、ごめんなさい!」

「いいんだよ。遊んでいれば時間を忘れてしまうこともある」

アドニスは優しい笑顔で席に着くよう促した

「ファレノプシス、君は随分いいものを持っているね」

「え?」

「その美しい花たちのことだ。よかったら私の持っている本と交換してくれないかい?」

アドニスはそう言って本を机の上に置いた

欲しかったあの図鑑である

「え!本当にいいの⁉︎」

「ああ、もちろん。そろそろ部屋に飾る花が欲しかったからね」

アドニスに花を渡し、本を手にとる。念願の図鑑だ。嬉しくないはずがない

「君も帰ってきた事だし食べようか」

「いただきます!」

今日のスープはいつもより美味しかった

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