春の潮ー2
「あの子の言うとおりだった!」
ナナが着いた家の前には、大きな看板に「村長の家」と白いペンキで荒々しく書かれていた。
「誰だ? 家の前で騒いでいるのは」
家の中から出てきたその男性は、無精髭を生やした大木のような人だった。
「こんにちは! 依頼を受けたナナです!」
「依頼?」
男性は腕組をして、大げさに頭を傾けた。
「ああ! 出した出した! 君がそうなのか。どうも、この町の村長だ」
村長は豪快に笑って、ナナに手を差し伸べた。ナナは笑顔でそれに応じて、二人はしっかりと握手を交わした。
「詳しい話は中でするから、入ってくれ」
「失礼しまーす!」
ナナは元気に村長の家の中へと入った。
「どうぞ」
村長はそう言って、木でできたテーブルの上にコーヒーを置いた。ナナはその匂いを味わってから、口の中ににゆっくりといれた。
「おいしいです! 特に最後にほんのりとした甘さが口に残ります!」
「俺がブレンドしたんだ。その甘さは隠し味のイチゴジャムだよ」
「おお」と感嘆の声を上げ、ナナはもう一度コーヒーに口をつけた。
「それで依頼の件だがな」
その豪快な顔かとはかけ離れた、神妙な面持ちで村長は言った。
「桜を咲かせて欲しいんだ」