春の潮ー1
「着いた~」
ある丘の上。一人の少女が、空に届けと言わんばかりに腕と背中をうんと伸ばした。
風が少女の長い栗色の髪を揺らす。
村の近くには広大さを隠すことなく海が青く輝いていた。
「なんだ、着いたのか?」
すると、少女が肩に掛けている鞄の中からメガネをかけたウサギが顔を出した。
「もうすぐだよ!」
「じゃあ、喜んでる暇なんか無いだろ? ナナ。早く行けばいいじゃん」
「なんでそんなこと言うの? クラウ。いいじゃん、喜んだって」
ナナは唇を尖らせた。クラウは「ふん」と鼻を鳴らして鞄の中に入っていった。
「さてと……」
ナナは胸ポケットから一通の手紙を取り出し、その文面に目を通す。
「村長さんに会って、話を聞かないと」
ナナは手紙を胸ポケットに入れ、村へと歩いていく。
村の名前はフリークスという名前で、ナナに届いた手紙と同一の名前だった。
民家と民家は適度な距離を保って建てられていた。その空間を淡い緑色の草原が埋めている。遠くの丘の上には、大きな木が一本、その存在感を示していた。
「自然豊かー!」
ナナは辺りを見回しながら意気揚々と歩く。
「なーに、ちんたら歩いてんだよ! とっとと村長の家に行こうぜ」
クラウが鞄から顔を出し、ナナを急かす。
「そうなんだけどさ~、分かんないんだよね~」
「何が?」
「村長の家」
クラウは空いた口が塞がらない様子で、ナナをただただ見つめる。
「どうしたの? 私に魅力を感じちゃった?」
「そうだ。馬鹿という魅力に頭がクラクラだ」
ナナはエヘン、と鼻を鳴らした。クラウは「アホくさい」と言い、
「とっとと村の人に場所でも聞けよ」
と言葉を残し鞄の中に入っていった。
それもそうだ。ナナは納得し、前から歩いてきた赤いワンピースを着た少女に声を掛けた。
「こんにちは。私はナナといいます」
「こんにちは! 私、カナミです!」
「カナミちゃんね~。村長さんのお家、知ってるかな?」
「うん! あのね、この先を真っ直ぐ行ったらあるよ!」
「ほほう。何か目印はある?」
「あのね~、『村長の家』って書いてあるよ」
「そうなんだ! ありがとう!」
カナミに手を振り、ナナは歩き出した。
「いや~、アナログって分かりやすい!」