少年
Hugo=Yagoさんからの依頼小説
迂闊だった。
回転寿司と言うからには、『回転する』ことが恒久の約束であると考えていた。小瓶の中のガリを摘みかけていた箸を置き、両手で頭を抱えた。
これが現実である、そう思わんとするも、心の片隅で、自問自答が繰り返される。
「俺が、間違っていたのか……?」
これが、この世界に対する失望感というやつなのだろうか。もはや寿司の味など遠い記憶であるかのように、訳の分からない苦味に延々と侵されている。もしかしたらそれは、十七歳という若さ故なのだろうか。
少年は、天井を見上げた。蛍光灯に照らされる、淀んだ瞳。それは例えば、死んだ魚。このしなびた鯛のような。少年は、カタリ、カタリと浮浪する皿を取り、放置され続け既に水気を失った刺身を見つめた。
「ん?」
動いている。レーンが、動いている。少年は、自身の目を疑った。しかし、何の異常も無い。確かに、動いていた。その時、何処からか、不意に声が聞こえた。
「ねぇ」
それは、少年が手に取ったままの、鯛の寿司の皿だった。
「人生ってね、思わぬところで落とし穴にはまることがあるんだよ。こんな風にね」
微動だにせず、鯛の刺身は言葉を続ける。
「だからね、いつでも上手くものが流れて行くなんて思わない方がいいよ」
夢か現か、それは一瞬の出来事だった。は、と少年が気付いた頃には、もうその声は消え、店は再び騒々しく回転を始めていた。しかし何故か、以前よりも心が澄んだような、妙な感覚を覚えつつ、少年は鯛の寿司に醤油をたらと掛け、ひょいと口にした。
席を立ち、勘定を済ませる。
「あら、お客さん、おつりは?」
「いいんです、こっちがお礼をしたいくら……いえ」
「はぁ」
少年は満たされた腹を押さえながら、駅までの道を駆けていった。