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戦うということ その4




「答えなさい。アナタは命乞いをする人間を何人殺したのかしら?」

「……」

 しばらくの沈黙の後、魔人は答えた。

「3人だ」

 その言葉を聞いて兵士たちが激昂する。

 ——殺せ、この場でコイツを殺っちまおう!

 猛り狂った兵士達が次々に剣を抜き、声を上げる。


「……いい度胸ね、普通、この場でそんな告白するかしら。」

 呆れた、という表情で聖王(クリス)は魔人を見下ろす。

 相対する魔人は傲然とクリスに唾を吐きかけた。

「ハッ、俺たちを虫ケラとしか思っていない人間どもがよく言うぜ!

 何人殺したかなんて関係ないのだろう?どうせ、このまま俺を殺すんだろう!?

 殺せよ!さぁ!!」

「……どうして、そんな人間を憎むの?」

 今にも喰いつこうとする魔人に臆することもなく、クリスは冷静に問いかけた。

「どうして?そんなの決まってるじゃないか!そう決まっているからさ!

 お前たち人間は魔族を殺し、滅ぼそうとする。

 だから、俺たちはあんたら人間を一人残らず根絶やしにしてやる!」



 ——決まっている……

 まただ、またここでもおんなじ……

 決まってるから、変わらない……変えられない。



「だったら……」

 魔人の言葉にクリスは頭に血が昇るのを感じていた。

 冷静ではない——わかってはいても衝動が止められない。

「だったら、お望み通り、こ——」

「よせっ!!」

 辺りに轟くほどの大声が辺りに響く。

 声の主はホークであった。


「クリス——、お前は軽々しくその言葉を言っちゃダメだ」

 ぎり、と拳を強く握りしめるとホークは兵士に命じた。

「お前ら、見張りを残して持ち場に戻れ。こいつを殺すことは許さない」


「だ、大隊長!?」

 兵士たちに動揺が広がる。

「こいつが言う通り、誰かを殺していれば処刑することもできる——」

 握る拳からは血が滴っていた。

「だが、それを誰が証明できる?」

 実際、村人は残らず殺害されており、目撃者を探すのは難しい。


「俺たちは傭兵である前に聖王騎士団だ……裁判なしの処刑は許さない」

「ですが、こいつら魔人は人間を——」

 若い兵が声を上げると同時にその頰にホークの鉄拳が突き刺さる。

「そんなに魔人を殺したければ、教会に行け!お前が死ぬまで魔人を殺させてくれるさ」

「くっ……」

 悔しそうに若い兵士はホークを見据える。


「『我、聖王の命に従い、正義を行う』——騎士の誓いですか」

 魔人を取り囲む兵士の壁の外側から、透き通った声が聞こえた。皆がそちらを振り向く。

 そこには紫色のマントに身を包み、腕を組んでいる細身の参謀——ロシェの姿があった。



「聖王騎士団は聖王を頂点とした軍事組織です。

 ホーク少佐の言うように、裁判なしの死刑を執行しては我々は軍隊ではなくなってしまいますね」

 うんうん、と自分で納得するように何度も頷く。

「ロシェ参謀——しかし、それでは……」

「それでは、我々は盗賊団でも始めますか。

 同じように感情に任せ、魔族の村を襲い、虫ケラのように略奪して回ります?」

 反論しようとした若い兵士に皮肉を込めてロシェは笑いかけた。


「あ、アナタ……誰……?」

 クリスがロシェに向かって問いかける。長身のロシェを見上げる格好となった。

「これはこれは、陛下——申し遅れました。(わたくし)、この大隊の参謀を務めるロシェと申します」

 クリスを見上げる目線まで恭しく膝をついて答えた。



 ——キ、キレイな男の人……よね

 なんか、中性的で男かどうかわからない



 ロシェのマントは全身を隠すものであり、線の細さと色の白さから、一見して男女の区別がつかなかない。

「陛下——陛下は人間を導く存在です。

 良くも悪くも、貴女の進む道がここにいる者たちの運命を決めることになるのですよ。

 我々は陛下に命を捧げると誓った騎士なのですから」

 ロシェは目の前の少女を諭すように言った。それは同時に大隊の兵士たちに向けられたものだ。

「聖王騎士団は聖教騎士団と違い、魔族を倒すための軍隊ではありません。

 人間を守るための軍隊なのですから……」


 聖王国には二つの軍隊が存在している。

 一つは、聖王騎士団——。転生した聖王を命令系統の頂点として組織される軍隊だ。

 もう一つが聖教騎士団——。こちらは聖王を「"神の代行者”として魔族を滅ぼす指導者」として崇拝する聖教会が保有する宗教騎士団だった。

 聖教騎士団は『聖王を補佐する』としながらも、宗教指導者である教皇直属の軍隊であった。

 聖教会にとっての聖王の定義から分かるように、彼らは魔族を滅ぼすことそのものを目的としている。

 聖教騎士団であれば、魔人というだけで殺人の免罪符を得られた。

 だが——聖王騎士団は違う。


「だから、貴女の許可なく、戦闘以外で魔人を殺したりはしない」

「——つまり、アタシに軽はずみな言動をするな……そう、言いたいワケね?」

 クリスの手を取り、諫言するロシェにクリスは冷静に聞き返した。

「ふふ、利発な子は好きですよ」

 悪戯っぽく、ロシェは少女に笑いかける。

 透き通った瞳に吸い込まれそうになる。なんて、優しげな顔をする人だろう——クリスは顔の温度が上がるのを感じた。


「ま、まぁ、いいわ……」

 くるり、と踵を返すと再び囚われた魔人に相対する。

「アナタ、本当に殺したの?」

 真っ直ぐな瞳が魔人に突き刺さる。

「……殺していない。俺は死体から金目のモノを取ろうとしただけだ」

 目を合わせず、魔人は吐き捨てるように言った。


「いいや、殺したに決まっている!」

 周囲の兵士からは魔人を非難する声が上がる。

 その声をかき消すように、クリスははっきりと言った。

「真偽が分かるまでこの人に手を出さないこと!」

 兵士たちがどよめく。

「いいこと、これは聖王の命令よ!」

 ぴしゃり、とクリスが声を張り上げると、全員が直立した。

 クリス独特の雰囲気が、既ににして王者の風格を帯び始めているようだった。


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