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戦うということ その3

「お、お願いだ!殺さないで!!」

 村はずれの枯れた木にその魔人は縛り付けられていた。

 跪き、頭を地面にこすりつけて懇願する。

「ふざけるな!」

 横にいた兵士がその顔を蹴り上げる。

 グフッ、っと大きく呻き、地面には血が飛び散る。


 捕らわれた魔人の肌は紫色をしており、額にはツノが生えている。

 実に典型的な魔人だった。


 魔族は20人程の小規模な部隊で村を襲った。

 食料の略奪と人間の殲滅——それが彼らに与えられた命令だったようだ。

 隊は忠実にそれを実行したのだった。


 捕虜となった魔人は自分の戦利品調達に夢中になって、隊とはぐれたらしい。

 死体から金目の物を奪おうとしていたところを発見した大隊によって捕らわれたのだった。



 ——この状況でよく殺さず、生け捕りにしたもんだな……



 報告を受けてホークがまずやったことは生け捕りにした兵士を褒めることであった。

 戦場では一時の憎しみで行動しがちだ。

 ホークたちはこれから敵地、魔族の領土に入ろうとしていたところである。

 その進路上の敵の位置を知ることは自分たちの生死を分けかねない。

 捕虜は重要な情報源だ。


「お前らは……ケッセルドルフを落としにきたのか?」

 冷ややかにホークは問いかけた。

「知らない!俺は上に命令されただけだ!!」

 捕虜がそう言うとまた先ほどの兵がその顔を蹴り飛ばす。低い呻き声が響いた。

「こいつ、さっきから同じことしか言わんのです」


 ——無理もないだろう。見たところ最下級の兵士だ。


 ホークは魔族の兵は訓練もロクに受けたことのない魔族の農民を徴発したものだということを経験的に知っていた。

 聖王国で兵士——といえば、職業軍人であり、長い訓練期間を経た騎士を指した。

 傭兵の集団である旅団であってもそれは同じだ。

 故に、聖王国兵1に対し、魔族兵3という法則がある。聖王国兵一人は魔族兵三人に等しいというのである。



 だから、こいつから引き出せる情報はほとんど無いだろう。

 なにしろ、略奪に夢中になって捕まるぐらいなのだから……


「じゃぁ、殺しますか」

 いとも簡単に、脇の兵は言い放つと剣を抜いた。

「ひ、ひぃぃっ……お、お願いだ命だけは……」

 再び魔人は泣き叫んだ。


「へぇ……面白いことを言うのね」

 不意に、この場に不釣り合いな幼げな少女の声が響く。

 兵士たちの列が静かに割れ、その中をゆっくりと少女は進む。


 命乞いをする魔人の前に一歩進み出ると、聖王(クリス)は言った——

「あなたはそう懇願する人間を何人殺したのかしら?」



 ——散々、自分たちは酷いことをしておいて、なんて、図々しい



 クリスも七海同様に村の惨状を見てきた。

 同じように、教会の目の前で立ち尽くし、捕虜を取ったという報告を聞いていた。

 七海が魔族の残酷さに打ちひしがれている一方で、クリスは強烈な怒りを覚えたのだった。


 村は実に効率的な略奪を受けていた。

 さっと殺して、食料を奪って逃げる。

 明確な、一個の冷徹な戦術が貫かれていた。

 一切の容赦ない殺意が人間に向けられていたのだ。


 人間を何だと思っているんだ、クリスにはそんな怒りがこみ上げてくる。

 それだけの殺意を向けた相手に、こんな簡単に命乞いができるものだろうか。



「殺さないで——あなたはそう懇願する人間を何人殺したのかしら?」

 捕虜の目の前に立つとクリスは再び問いかける。

「な、なんなんだ、あんたは……」

 腫れあがった顔で見上げると逆に魔族が問う。それに対するクリスの答えはシンプルであった。

「アタシ——?アタシは聖王よ。」

 聖王、その言葉を聞いて魔人は愕然とする。

「答えなさい。アナタは命乞いをする人間を何人殺したのかしら?」

「……」

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