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奇妙な一行 その7

「そ、そんなの間違ってるよ!」

魔族は人間の敵——そう、断言する自分の適応者(インストーラー)に魔王自身が声を上げた。



——そんなの……間違ってる……



七海の中に一つの記憶が蘇っていた。



「——どうして?ねぇ、どうして?」

「——そんなの、決まってるじゃない」



懐かしいのに、どこか遠い記憶——

私はいつも頑張ってきた。

そう、私はいつだって全力で頑張ってきたんだ。

こんなの間違ってる。


決められたことを、決められた通りにやる。

私はそれが得意だ。

でも、いつだって決められたことに疑問を感じた。

だから、いつだって聞くんだ。


——どうして……?って。


答えはいつだって同じ。

”そう決まっているから”



「どうして——?」

七海は声を上げる。

「——どうして、そんな大事な事……命を奪い合うことなのに、決まっているって一言で済ませられるの?」

「困ったなぁ……これから人間を滅ぼそうっていう魔王様がそんな様子……じゃっ!?」

言い終わらないうちにシュバルツの首をしなやかな指が締め上げた。

「……七海、大丈夫。」

七海の方を心配そうにシグナスが見つめている。

「この場で人間と魔族が戦うことを決まっていること——だなんて考えてるのはコレとアレだけ……」

無表情ながら、シグナスは精一杯微笑みかけているようだった。


「シグナス……」

七海はシグナスの方に頭をもたげる。よしよし、とその頭を少女は撫ぜた。



——驚いた。

アタシと同じように考えるのね……



クリスは勇気を振り絞って叫んだ少女に共感を覚えた。

彼女も、決まっている——という言葉が嫌いだった。

決められた運命を、決められたように生きる——そんな退屈な人生、何が面白いのだろう。真っ先にそう感じる。


「そうね、アタシもそう思う」

素直にクリスが同意する。

「ちょ、ちょっと!?君までそういうの??

 今は人間の軍隊の中にいるんだよ??

 戦ったら、絶対に勝てるよ!」

シュバルツはどうしてもこの有利な状況下で戦いたいらしい。


「残念だが、この隊の連中は俺の命令しか聞かないし、俺は七海と戦うつもりはない」

横に座る勇者から断言され白いイタチがうなだれる。

「ど、どうして!?こんな有利な状況に……」

「俺らはその”決まったこと”に翻弄されて、ウン百年殺しあってんだ。いい加減飽きたのさ——」


飽きた。いかにもホークらしい表現だった。

聖魔戦争と呼ばれる人間と魔族の戦いは二千年近い歳月が費やされていた。

聖王も魔王も数十年から百年以内に再臨する。

第数十次聖魔戦争——十回を超えたあたりからだろうか、誰もが何回目のせんま戦争であるか数えるのを止めてしまった。

数えるのを止めてからですら数百年経っている。



——人間同士の殺し合いですら悲惨なのに、この上魔族との戦争なんてゴメンだ。



ホークは戦災孤児だった。戦災、といっても、野党まがいの自称解放軍に村を襲われ、両親を失ったのだが……

だからなのか、前の聖魔戦争の後に生まれた世代にもかかわらず、身にしみて戦いが悲惨であることを知っていた。

その上で、傭兵という殺し稼業に身を置いているのだ。



——そう思ってた俺が、勇者ってのは本当、笑えねぇよな……



自虐気味に苦笑するとホークは言った。

勇者は魔王を倒すもの、この世界ではそう 決 ま っ て い る 。

「俺は七海を守ると約束した。それを違えるつもりはない」

きっぱりと、シロに向かってホークが言う。


「き、君は何を言っているのかわかっているのかい?」

シロは驚きの色を隠せなかった。

勇者は魔王を倒す者だ。

その、勇者が公然と目の前にいる魔王を守ると言う——

「まったく、理解できないよ……」


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