魔王
「君が元の世界に戻るための条件、それは君がこの世界で勝利することさ」
勝利? 一体何を言っているんだろう……
何かと戦うということなのかな……昨日みたいな化け物と!?
ムリ、ムリ、そんなの絶対にムリだよ!
「な、何を言っているのかわからないよ……」
七海が困惑しながら、シュバルツに答えると、そうだろうとしきりに頷き、言葉を続けた。
「簡単に言おう。君は人間と戦い、人間に勝利すればいいんだ。もっと簡単に言うと、勇者を倒せばそれで終わりさ。」
待って、待って、待って!
どういうことなの? 戦う? 人間と?? 勇者と??
意味がわからない。
「ちょっと待って! 私、転生したんだよね?」
「ああ、それはさっき説明したよね。君は死ぬ直前の一瞬を生きて……」
「そんなことはいいの! 普通、別の世界に転生したら勇者になって魔王と戦うとか、そういう展開に決まってるでしょ!?」
七海は頭に乗っていてたシュヴァルツを両手で掴み、目の前に持ってきて畳み掛けた。
「なんで私が人間と、勇者と戦わなきゃいけないの!?」
やれやれ、という気怠い感じでシュバルツが答える。
「普通ってなんだい? 君は転生することが普通とでも思ってるのかい?」
「そ、そういう訳じゃ……」
「まぁ、揚げ足を取っても仕方ないね。君の質問に答えてあげるよ。君が人間と、勇者と戦わなければならない理由。それは――」
「君が魔王だからさ」
「……私が……魔王……?」
「そう、君は魔王だ。魔族の王様だよ。」
言われたことの意味が理解できない。
「魔王って……。魔族って化け物のことでしょ? 私は化け物の王様ってこと?」
「それは一方的な偏見だね。人間だって魔族から見れば化け物さ。」
七海はショックで脱力したのか、緩んだ手からシュバルツはスルリと抜け、天井に登った。
「まぁ、まだ状況が飲み込めないのは仕方ないよ。こちらに来たばかりだからね。第一、僕が初期説明を始める前によくわからない状況になってしまったからね。」
「よくわからない状況って……?」
「昨晩、君を襲ったのは魔族の中でも位の高い貴族さ。なんで君を襲ったのか、僕も状況が掴めていなくてね。」
そう言いながらシュバルツの姿が薄くなっていく。
「もう少し君と話したいところだけど、誰かがこちらに来るみたいだ。一旦、僕は姿を隠すよ。」
「ちょっと待って!」
七海が呼びかけたが、シュバルツの姿は既にそこにはなかった。
「ちょっとよろしいかしら?」
声と同時にテントの入り口が開かれる。
外から入ってくる強い光と、これからどうなるのかという不安に七海は軽い目眩を感じていた。