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大脱走! その7

「どうやら見つからずに降りられたようだな……」

最後の一本の槍から降りようとするクリスの手を引きながらホークが言った。

まだ城内ということもあり、そこかしこに人の気配がするものの、今の所発見された感じはしない。

「つ、疲れた……」

ヘナヘナとクリスがその場にへたり込んだ。20メートル以上の高さから槍をハシゴに降りてきたのだ。

「大丈夫か?まだ先は長いぞ?」

ホークがクリスを引き寄せる。頭を低く、しゃがみこみながらゆっくりと中庭の茂み伝いに歩いていた。


——あったかい。


ホークの手は大きく暖かかった。

強く握られた手から体温が伝わってくる。

クリスは鼓動が早くなるのを感じていた。

それは見つかってはいけないという緊張感だけからくるものではないようだ。


「ちょ、ちょっと、い、いつまで握ってるのよ?」

クリスはわざとらしくクレームを入れる。

「ん?ああ、悪ぃ」

ホークはにべもなく手を離し、引き続き前方の気配を伺っている。

「……」

不満げに頬を膨らませると、男の顔をまじまじと見つめた。

ホークは20歳。中学生のクリスからすれば、とてつもなく大人に見える。

傍目にみると少年のような幼さを残す顔つきであるが、少女が見上げるその姿は頼もしい青年の姿そのものだった。


「とりあえず、この辺に見張りはいないようだが……姿勢を低くして付いて来い」

こちらを振り返りもせず手招きだけでじりじりと前に進んでいく。

真剣にやっているのは分かるのだけれど、正直物足りない感じがした。

「おい、お前……なんでそんなふくれっ面なんだ?」

その様子に気づいたのか、ホークが振り返って声をかける。

「べ、別になんでもないわよっ!」

顔色を悟られまいと、下を向いたままクリスは歩いていく。


中庭を抜けるとホークが言った通り、食料庫へと通じる細い通路があった。

普段は使われていないようで、鍵がかけられている。

「ちょっと、鍵がかかってるじゃない?」

「ああ、こういう鍵はこうすればいいさ」

ホークは何処からか細い針金を取り出すと、鍵穴に差し込み、カチャカチャと回す。

すると、ものの2、3秒で鍵が開いてしまった。


「な?」

「……勇者のアビリティには盗賊もついてるのかしら?」

「ふふん、昔からだ。この手の鍵ならなんでも開けられるぞ。」

そう言って針金をくるくると回し、口にくわえてポーズを取って見せる。

勇者様はピッキングがお得意らしい。


褒めてない——そう思いつつも、得意げに自慢するホークがおかしく感じられ、クリスはくすっと笑ってしまう。

「お前、そんなかわいい顔もできるんだな」

「な——」

ホークは一瞬緩んだクリスの笑顔を見ると自然と褒めた。突然のことに、クリスは顔が沸騰しそうになる。


「んじゃ、行くぞ」

だが、それをよそにホークはもう先へ進もうとしている。

人の気も知らないで——本当にこういう奴はタチが悪い。

クリスは後ろから拳でホークの背中をドスドスと叩いた。

「ちょ、なんのつもりだ?」

「う、うるさい。さ、さっさと連れて行きなさいよ」

ドアを開けた先は狭い階段が奥へと続いていた。

クリスはホークの背中におでこを密着させ、火照った顔を見られまいと降りていった。

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