大脱走! その4
「……」
だが、意外にもクリスの反応は大人しいものであった。
顔を横に背け、頬を赤く染めている。
ちょ、ちょっと待て!?
これじゃまるで俺が本当に夜這いに来たみたいじゃないか!?
「お、おい、クリス」
逆にホークが反応に困ってしまう。
「か、覚悟はできてるんでしょうね?」
クリスが顔を背けたまま小声で呟いた。
「ち、ちがうって!俺は別にお前を襲いに来たわけじゃ——」
ホークが慌てて両手を離し、違う、違う、と腕を振って否定したその時、
ゴンっ
クリスは迷いなく、ホークの股間めがけて強烈な蹴りを入れていた。
「——!?」
女子には一生分からない、分かりたくもないであろう痛みが彼を襲った。
突然の衝撃にホークはその場でのたうち回る。
「ふ、ふんっ。ア、アタシを襲おうなんて百年早いのよ」
そう言って、押し倒された瞬間に崩れた着衣の乱れを直しながらクリスが言った。
「陛下っ、陛下っ!?」
物音に気付いたのか部屋の外からガブリエルがガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえた。
昼間の反省から、内側から鍵をかけたため、彼がいきなり入ってくることはないようだ。
「ガブリエル、なんでもないわ。下がりなさい。」
「し、しかし、物音が聞こえましたので……」
「ちょっと寝ぼけてベッドから落ちただけ。女の子の部屋に勝手に入ろうとするなんてサイテーよ」
股間を押さえてもんどり打っている男を傍目にクリスがドアの向こうのガブリエルに下がるように命令する。
「か、かしこまりました」
飼い主に邪険にされた子犬のように、しゅんとした声で答える。
「陛下……私はこれから別命あって城外にでるため、警護ができません。くれぐれもお気をつけください。」
そう告げると、乾いた靴音を響かせ、ガブリエルは遠ざかっていった。
念のため、クリスはドアの外を覗く。
ガブリエルの後ろ姿が見える。
他にドアの正面には衛兵が二人立っていた。
目が合うと、クリスは二人に微笑んだ。
「遅くまでご苦労様」
すると若い二人の兵士は王から直接声をかけられたことに感動したのか、直立して答えた。
「ありがとうございますっ!」
静かにドアを閉め、鍵をかけると踵を返し、うずくまっているホークの前に仁王立ちとなった。
「さて……と、説明してもらおうかしら?」
クリスの冷ややかな視線にホークの身はさらに縮み上がった。




