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大脱走! その1

しんと静まり返った夜の帳。

時折、頬を撫ぜる風が心地よい。



——まったく、ひどい一日だった。



窓から遠く、城下町を見下ろす。夜更けだというのに辻々は煌々と明かりが点いている。

宮廷で行われる夜会はだいぶ前にお開きとなったのだが、まだ下町はどんちゃん騒ぎを繰り広げている。

昼間に魔族の襲撃を受け、相当な被害が出た一角もあるというのに逞しいことだ。



「あいつら、今頃俺への愚痴を肴に馬鹿騒ぎしてるんだろうか」



ホークは自分の大隊のことが気になっていた。



「2、3日城外で待て——」

その命令を下した時、隊の連中の騒ぎようといったらなかった。



「夜会のその日に、聖都を目の前の前にして、ようもそんな鬼畜な命令を!」

大隊の中でも最も気性の荒い騎兵を率いるアラウデが真っ先に噛み付いてきた。

「ウチらは再臨祭に聖都に入れるっちゅーから、無理してここまでがんばってきたんやで?」

いやいや、お前ら一応、軍人だろ?ピクニックじゃないんだぜ?



「そう、マイナはこの日を楽しみにしていました。責任を取って昇進させてください。」

マイナは……まぁ、相変わらずだったな。



「まぁ、貴方がいてもいなくても、隊をまとめるのが私の役目ですからね。ぶっちゃけ、いない方がまとまりますが」

うん、ロシェ、お前はぶっちゃけ過ぎだ。



「七海が心配。ついていく……」

シグナスは七海の手を握って離さなかった。

あいつはちゃんと七海を連れて修道院までたどり着けただろうか。



七海とシグナスは出会ってわずか数日とは思えないほど、仲が良くなった。

俺と同じ孤児だったシグナスは隊の中でも末っ子の妹のような存在だ。



「七海を守る——」

シグナスは七海の前に出て、珍しく俺に主張してきた。

七海と出会ったことでずいぶんと大人びて——

「ロリコン糞野郎の魔の手から守る……」

——前言撤回。こいつはただのクソガキだ。



まったく、身勝手な連中だ。

こちらは聖都に遊びに来た訳ではないのに……

というか、死にかけた。

「それどころか、勇者になっちまった」

ホークが一番信じられないのは我が身の身上だ。

一応は軍人で宮仕えではあるが、自由な傭兵の身分を気に入っていた。



「それが今や、籠の鳥か……」

王宮の一室を与えられ、宮廷の住人になった。

そう言えば聞こえはいいが、要するに自由を制限されたのだ。

わずか半日のことなのに、これがホークにはどうしようもなく苦痛に感じるのだ。



常に誰かの視線を感じる。

常に誰かが噂をしている。

自分を利用しようと色々な人が近づいてくる。



ベルトランは宮廷を<魔窟>と言ったが、それは的を得ている。



その生活はきっと、ずっと続く。

城にいれば、勇者をやっていれば、それは否応無しについてくる。



——よし、逃げよう!

まさか周りも初日に勇者が逃げ出すとは思わないだろう。

実にあっさりと、ホークは決心した。

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