夜会 その4
「まったく、退屈ね……」
そう言うとクリスは3切れ目のショートケーキに乗ったイチゴをつまんで口に運んだ。
ガブリエルが言う通り、確かに宮廷の料理はどれも絶品だった。
だが、次々に挨拶にくる貴族達に挨拶をせねばならず、ゆっくり味わっている暇がない。なにより、一人だけ孤立している感じがした。
「陛下、こちらは聖王騎士団、北方第五師団師団長のシュナイダー大将閣下です」
「陛下、お会いできて光栄です」
——もう何度、同じやり取りをしただろう。
恭しく片膝をつき、騎士団の幹部たちはクリスの右手に口づけをするそぶりを見せる。
これが、聖王国式の忠誠を表す行為らしい。
「はぁ、やっぱり来るんじゃなかった……」
周囲は侍女や護衛の兵、そしてガブリエルがぴったりとくっついており、ひとときも休まらない。
「なんで私ばっかり、こんな目に遭わなきゃならないのよ……」
そんな陰鬱な気分になっているところに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お前はひねくれ過ぎなんだよっ!」
声がする方に視線を向けると、人垣が遠巻きに誰かを囲んでいるように見える。
クリスはそちらの方へ吸い寄せられるように歩き出した。
「へ、陛下っ!」
慌ててガブリエルがクリスの後を追う。
人垣を分け入ってみて見るとそこには背の低い子供と戯れているホークの姿があった。
楽しそうに子供の首に手を回し、わしゃわしゃと髪をかき乱している。
「や、やめないか、皆が見ているだろう!」
——見ていなかったら、いいのかしら……?
ふと、よこしまな考えがよぎる。
目の前で展開されているのは、そこそこの美男子が年端もいかない子供に抱きついている絵面なのだ。
まさか、ホークがショタ好きだったとは思わなかった。
でも……こ、これはこれで……イケるっ!
やっぱ、左がホークよね……
そんな妄想とは関係なく、当のホークは右側に立っていた。
「貴様っ、やめろといっているだろう!」
いい加減、イラっと来たのか、子供がホークに頭突きを食らわすとホークが仰け反った。
あら、意外に勝ち気な子供なのね……
これはまさかのホーク右展開っ!?
いけない……妄想のし過ぎでヨダレが出てしまったわ……
「こ、これ以上近づくと舌を噛むぞ!」
じりじりと距離を取る子供とそれを捕まえようとするホーク。
——こ、これは誰得展開かしらっ……
「へ、陛下、目がアブナい感じですが……」
傍らのガブリエルがあきれる感じでツッコミを入れると、クリスは我に返った。
「う、うるさいっ!」
その声に二人もこちらに気づく。
「よう、クリスか」
「こ、これは、陛下っ!?」
子供の方があわてて膝をついて畏まっていた。
「そちらの子供とずいぶん仲がいいのね」
にまにまとした笑顔でホークに問いかけると、子供の方がむっとして立ち上がった。
「失礼ながら、陛下。私は子供ではございません。立派な騎士でございます」
よく見ると背格好は子供だが、顔は青年なのだ。その顔つきと体の小ささがアンバランスで不思議な感覚に襲われる。
「——陛下、彼は近衛師団第一連隊長のベルトラン様です。この聖都の守備隊長でもあります」
ガブリエルが驚くクリスの耳元でそっと目の前の男の名を教えた。
「あぅ……ごめんなさい」
クリスは素直に自分の誤りを認め、謝った。
ベルトランの表情を見て、ひどくプライドを傷つけたように感じたのからだった。
実際、クリスが<子供>と口にしたせいで、周囲からは嘲笑が起こっていた。
「いいのです、陛下。私めはこのようなシチュエーションにはなれておりますゆえ……」
そう言ってベルトランは複雑な笑顔で応えた。
「その、ホークと仲が良いんだなぁって思って」
「ああ、こいつと俺は親友だからな」
クリスの言葉に、ホークはベルトランの肩を抱き寄せてみせる。
「……いつ、誰が、貴様と親友になったのだ?」
「お前なぁ、友達なくすぞ」
「フン、俺には友などいない」
「ほんっとに可愛げがねぇな……」
当の二人は聞こえないとでも思っているのかごにょごにょと小声で罵り合っている。
「なんてホモホモしい……」
その瞬間、視線がすべて自分に集まるのがわかった。
——し、しまった、声に出てた……
「あ、いや。微笑ましい……って。あはははは……」
真っ赤になってその場を取り繕うと、クリスは踵を返した。




