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夜会 その3


何かがおかしい。

どうして俺はこんなところで愛想笑いを振りまいているのか……



ホークは豪華な衣装を身にまとう高貴な人々の間で困惑していた。

「勇者様はその若さにして既に少佐でいらっしゃるとか」

「それもそのはずよ!勇者様は2年前、士官学校を主席でご卒業されているのですから!」

一見して貴族の娘とわかるドレスを装備した女性陣に囲まれ、やたらと持ち上げられている。

「それほどのご経歴があって、なぜ辺境に?しかも傭兵隊だとか……」



この質問はいったい何度目だ……



「聖王国を魔族の手から守るために決まっているじゃない!」

「そう、勇者様は聖都での地位なんかよりも魔族から私たちを守る道を選んだ高潔な人物ですのよ!」



夢見がちな娘世代……なのだろうか。

ホークは自分よりも4、5歳年下であろう少女たちの語る勇者像を苦笑しながら眺めるばかりだ。



「——なぜ、聖都に残らなかったかって?それは、そいつが卑しい身分の出だからさ」

不意に後ろから水を差す言葉を浴びせられ、女性たちがはっと振り返る。

ホークも振り返るが男の姿は見えなかった。

「そいつは確かに士官学校を首席で卒業したが、貴族出身じゃない」

その男がつかつかと歩みを進めると、少女たちは自然とそれを避けて道ができる。

「家柄も何もない奴が実力だけでのし上がるには、辺境師団——傭兵になるしかないよなぁ」

人垣が割れ、その男が姿を現した。見えないはずだ。その男は背が子供ほどしかなかった。



「フン、久しぶりだな……ホーク」

「ベルトラン!」

視線を下に落とすと、ふて腐れた顔を酒でほんのり赤く染めた小男が立っている。

「久しぶりじゃないか!元気だったか?」

ホークは傍らの少女たちを押しのけ、無邪気にベルトランに駆け寄った。

「ああ、貴様も元気そうだな」

二人は互いの拳をトンと合わせる。

ホークは知り合いに会えた安堵感からか、はたまた知己に会えた嬉しさからか、微笑んでいる。

だが、それとは裏腹にベルトランはふて腐れたような態度を崩さなかった。



ホークとベルトランは士官学校の同期生だ。

ベルトランは聖王国随一と言われる大貴族、ルクレール家の跡継ぎでもある。

士官学校卒業後は近衛師団へ所属することになる。

その後、わずか2年で大佐の地位にあるのは彼が優秀だから、ということだけではないのは誰の目にも明らかだった。

なぜならば、彼の父親は大貴族ルクレール家のトップであるだけでなく、聖王騎士団の騎士団長の地位にもあるのだから。

一方のホークは身寄りのない孤児出身だ。風の旅団で育ち、非凡な才能を団長のフレデリックが見い出し、彼が後見人になることで士官学校への入学が認められたのであった。


「ホーク、貴様、こんな女どもに囲まれて鼻の下を伸ばしていると痛い目を見るぞ」

ぎろり、と二人を取り巻いている少女たちを睨む。

「で、殿下、それはどういう意味ですか?」

一人の少女が勇気を出してベルトランの前に出る。

「お前たちが中流以下の家門であることぐらい、俺にでもわかる。

今のうちに勇者様に取り入って玉の輿に乗りたいのだろうが、そんな簡単にはいかんぞ。」

「なっ!?わ、私はそのようなつもりでは……」

「では、あそこにいる父君が常に君に送っている視線にはどんな意味が?」

ベルトランが柱の陰を指さすと、ばつが悪そうに初老の男が退散する。

「……ちっ。家柄だけの小鬼(ゴブリン)が……」

父親が逃げ去るのをみて、先ほどまで丁寧な言葉遣いだった少女は捨て台詞を吐いて去っていった。

それに同調するように取り巻いていた少女たちも腫れ物を避けるように散っていく。

チビ、小鬼と口々に口汚く罵るのが聞こえてきた。

言われた本人は涼しい顔で聞き流している。


「ベルトラン、ああいう言い方はないんじゃないか?」

どっちもどっち、とは思いつつもホークは目の前の友人に苦言を呈する。

ホークは目の前の小鬼のような風貌のベルトランとは不思議と馬が合った。



「余計なお世話だ。俺はどうせ嫌われているからな。今更何を言ったって構わないさ。

それに俺はルクレール家だから、何をしたって許される。」

ベルトランは何かしらあるとすぐに<家門>を持ち出す。自分は大貴族の御曹司だと言う。

背が低く、子供のような風体とふて腐れた物言いが相まって士官学校の中でも孤立していることが多かった。

ホークは敢えて孤立しようとするこの男に興味を持ち、勝手に友人と自称するようになった。



「しかし……まさか、貴様が勇者になるとはな……。責任感とかそう言うものとは無縁の貴様が」

「お前はいつも一言多いんだよ。俺だってなりたくてなった訳じゃないさ」

気づいたら、勇者にされていた。だが、それがなければ今頃土の中だったろう。

「そういうお前だって、近衛の連隊長なんだろ?」

「フン、親父の見栄さ。こんな無様な俺でも家に見合うだけの地位を与えたいらしいな」

ベルトランは自らの体格に強いコンプレックスを感じていた。

彼のひねくれた性格はすべて体に対するコンプレックスから来ているといっても過言ではないだろう。

だが、常に斜に構えてみせるところがあり、他人からは異常な自信家にも見えた。



「ところで、ホーク……、俺は貴様にだけは宮廷に入って欲しくなかった」

「どういう意味だ?」

突然、ベルトランが深刻な顔でホークを見上げる。

「この宮廷は魔窟(まくつ)さ。嫉妬と陰謀が渦巻く世界だ。貴様は真直ぐ過ぎる—–」

ホークは思う。この友人は自己表現が本当に苦手なんだと。素直に心配だ、と言えばいいのにどこまでも遠回しなのだ。

「そういうお前はひねくれ過ぎなんだよっ!」

そう言ってホークは小さな友人の首根っこを掴むと、わしゃわしゃと髪をかき乱してやった。

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