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世界の理(ことわり) その9

「聖王も――、魔王も――、同じ?」

七海はヘルマンの言葉が飲み込めずにいた。

ヘルマンが、いかにもと大きく頷く。

「逆に問おう。魔王と聖王はどう違うのじゃ?」


「それは――魔王は悪い人だからに決まっているからじゃないですか!」


「魔王が悪いと誰が決めたのじゃ?」

「それは、人間……なのかな」

「立場を変えて考えてみるがよい。魔人たちにとっても人間は自分たちを殺そうとする悪い奴ら――ではないかの?」


そうなんだろうか――?

魔族、魔人、っていったら人間に害をなす悪い存在。

どんな物語でもそう描かれているし、実際、この世界の人間たちは魔族に対して憎しみを持っている――


「ステラ、魔人が人間と戦う理由は何じゃ?」

「人間は魔人たちが元々暮らしていた豊かな西方の地を奪い、多くの無辜の民の命を奪った――だから、魔族は魔王様が再臨されると奪われた土地を奪還するために立ち上がる。それが、代々語り継がれている伝承です。」

「それではシグナス、人間が魔人と戦う理由は何じゃ?」

「……魔人は人間が切り開いた東方の肥沃な大地を狙っている。

……魔王は人間を根絶やしにして、人間の土地にその王国を築く。」


シグナスはそう呟くと手元のシュバルツをまじまじと見つめる。

「僕は魔族と神族が戦う理由なんてどうだっていいさ。

僕の仕事は魔王をこの世界に適用させること――

聖王と戦えるようにアドバイスするだけだからね」

シュバルツには魔人と人間がどうして戦うのか興味がないようだった。


人間にも、魔人にも戦う理由がある――

単に憎み合っているわけじゃない……てこと?


「とても長い間、神族と魔族は戦ってきたんじゃ。

お互いに憎しみ合うのは当然じゃが……元をたどれば、ごくシンプルな領土問題じゃ」


よっこいしょ、とヘルマンが椅子から立ち上がる。


「じゃが、際限ない戦争を延々と続けるのはお互いに骨が折れる。

そこで、太古の人々は考えたのじゃ――お互いの代表を異世界から呼び寄せ、その二人に決闘をさせようと。

その勝者が、約束の大地と呼ばれる聖王国の東半分を支配すると――」


「そ、それは本当なのですか!?」

ステラにも初耳の話らしく、大きく身を乗り出す。

「貴女は本当に、答えを急ぎたがるのう」

にっこりほほ笑み、ヘルマンの話がゆっくりと続いた。


「だが、最初にそれを考案した人たちの思惑はすぐに外れてしまったのじゃ。

異世界から呼び寄せたがゆえに転生者は非常に強い魔力を持つ。

その魔力を背景にお互いに人間、魔人をまとめ上げ、王となった。そして、軍隊を組織し、大規模な戦争をするに至った。」


「そんな――、それじゃ、血を流さないために呼び寄せた魔王と聖王が争いの原因になってるんじゃ……」

「そういう見方もできるの。じゃが、どちらかの陣営が転生者を殺してしまえば、そこで戦争が終わる――ということでもある。

ここ数百年、聖王国はその版図を維持しておるが……それは全ての魔王をその時の勇者が倒しているからじゃ。

そして、魔王を倒した時点で聖王国は戦闘を停止し、魔族もすぐに軍を引く。」


「人間も魔人もお互いを根絶やしにすると言いながら、決してそれ以上は踏み込まないのじゃ」

――何故だかわかるかの?」

ヘルマンが七海に問いかける。


――分からない……


無言で重苦しい時間だけがゆっくりと過ぎていく。

ヘルマンは頃合を見計らって再び口を開いた。


「互いの勢力は争うことによって軍隊を強大化させすぎた。

行き過ぎた戦争をすればそれは総力戦となる」


総力戦――戦争において、双方の国が国力のすべて、国民、資源のすべてをつぎ込み、どちらかが滅びるまで戦う戦争を指す。

この世界で人間が魔人を根絶やしにしようとすれば、魔族軍だけではなく、全ての魔人を相手にすることになる。

人間側でたとえるのであれば、兵士だけではなく、普通に生活をする人々、女性や子供まで――そのすべてを敵にすることになる。


「聖王国で考えた場合、兵士は全人口の1%にも満たない。

つまり――総力戦になれば、敵の数は100倍以上になる――」


「総力戦は神族、魔族ともお互いに犠牲が多い。増えた分の敵を倒すために兵を増やせば、働き手がいなくなり、現在の支配階級が滅びかねない。

だから、魔王を倒した時点で戦争は終わるんじゃ


ヘルマンの言葉に誰も反論はできなかった。


「でも、魔族は――魔王を倒されて、どうしてその時点で戦いを止めてしまうの?」

七海はヘルマンに疑問をぶつける。

自分たちの王様を殺されて、向こうがそれ以上攻めてこないから戦いを止めてしまう?


「それは、そちらのお嬢さんの方が詳しかろう」

ヘルマンはサテラの方を向いて答えた。

「そうですね……。

元々、魔族は小さな封建領主の集合体……まぁ、地方有力者の寄合所帯といえば分かるでしょうか――?

聖王国の様に一国が巨大な軍隊を所有するのではなく、各家門がそれぞれの軍隊を持っていて、魔王様が再臨された時のみ、合同で軍を組織する。

だから、魔王様が討たれてしまうと、誰も束ねることができないので、軍は霧のように消えてしまうのです」


「そんな――だったら、両方とも最初から戦わなければいいのに……」


「それが、この世界の(ことわり)――

矛盾に満ちたルールなんじゃよ」


「そんなの……間違っている……と思います」

決まっていることだから、殺し合い――

決まっていることだから、それを中断する――

だったら、最初からじゃんけんでも何でもすればいい。

なんで血を流す必要があるの?

理解できない――キモチワルイ――


「ゆっくりと考えることで見えてくるものもあるじゃろう。

今日は先の聖王の復活を祝う再臨祭、今夜は夜会じゃ。あちらにごちそうを用意しておる。楽しんでおくれ……」


「……ごちそう」

シグナスの目が輝いた。

「……七海、難しい話は飽きた。……ごちそう」

「もう、シグナスってば――」

苦笑を浮かべつつ、七海ベッドから降りる。

「私も色々ありすぎて……今日はこれ以上考えるのは止め!

シグナス、サテラさん、ご飯にしよっ!」

と、ヘルマンの案内に従って奥の部屋へ入っていった。


「……」

その姿をサテラは無言で見送る。

「何をつっ立っておるんじゃ。

あの子の転生を祝ってやればいいんじゃよ」

ヘルマンの言葉にハッとさせられる。


「ステラさん!はやく!!シグナスが全部食べちゃうよー!!」


そうだ、マスターの転生をお祝いしよう。

これから待ち受ける彼女の運命は、今よりももっと、もっと過酷になるのだから――


「はい、マスター!今行きますっ!」

ステラは精一杯明るく答えると、七海のいる部屋に駆けていった。


長かった…。

まとめるの大変でした(-w-

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