世界の理(ことわり) その8
「本当、困るんだよなぁ……」
「何が困るって言うのよ」
困惑するブランにクリスはさも不思議そうといった体で問いただす。
「僕はインストーラーで、聖王を導く者なんだ。
神族の長としてのあり方をアドバイスしたり、魔族との戦い方を指導したりするパートナーなんだよ」
「へぇ、それじゃ、聞くけど、どうして聖王――いいえ、人間は魔族と戦っているの?」
「魔族が人間の敵だから、さ」
クリスの問いに、当然と短い鼻を鳴らす。
「どうして敵なの?アタシもさっき戦ったけど、人間と明らかに違うのは一つ目の巨人位で、あとは翼が生えているかどうかぐらいの違いじゃない」
「ふふん、やっぱり僕のナビゲートが必要だね」
得意げな表情でブランが語り出す。
「魔族っていうは大きなくくりで、魔神、魔人、魔獣の3タイプに分かれるんだ。
魔人は人間と違って色んなタイプがいる。翼の生えている魔人は珍しいよ。
魔人の肌の色は紫色で、それ以外で人間と区別するのは難しいんだ。
そうそう、一つ目の巨人、ギガンテスは知能が低いから魔人ではなくて魔獣に分類されるね。」
人間が馬などの獣を戦闘で使用するのと同じで、魔族は魔獣を戦闘で使用するらしい。
ギガンテス以外にも竜などの魔獣が多く用いれている。
「シロの説明だと、人間と魔人の違いってそんなにないわよね?」
人種の差程度、直感的にはそんな感じがする。
それなのに、殺しあう?
「まったく……君は本当に規格外なんだなぁ。そんなところにすぐ気づくなんて――」
やれやれ、といった態度でブランが応じる。
「能力の開花自体も普通じゃないよね」
インストーラーの登場を待たずに勝手に覚醒する――
しかも、勇者まで勝手に作って――
いつの間にか術式まで使いこなしてしまう――
普通は覚醒後にインストーラーのガイダンスに従い、血の契約を『しかるべき者』と交わして勇者にするらしい。
アタシの場合は……何というか事故で作ってしまったみたい。
ホークにキ、キス――じゃなくて、人工呼吸をした時、切れた唇どうしが血を交換しちゃって……
お互いの血を交換することを『血の契約』といい、勇者を作り出す行為なのだとか。
「初回から術式を暴走させない聖王なんて見たことがないね。
自分の意図で使いこなすなんて前代未聞だよ」
「なんだ、アタシ、ただの天才じゃない」
「ちょっと……それ、普通自分で言う?」
「っていうか、アンタ今のところ何の役にも立ってないわよね?」
アタシを褒めることで、肝心な答えを意図的に避けている。
自分の話したいこと、都合のいいことばかり言って、結局アタシを助ける気なんてないんじゃない。
ホント、ムカつく――このイタチ……
「分かったよ……人間と魔人の違いを説明しろってことだよね」
「ごまかしたっていう自覚位はあるのね」
「まぁ、いいよ。違いなんて、どうだっていいことさ」
冷たくあしらうクリスに対し、ブランの答えはもっと冷たいものであった。
――どうだっていい?
「そうさ、何が違うかなんて、どうだっていい。昔から人間と魔族は殺しあう、と決まっているんだから――」
決まっている、その言葉を聞いた途端、クリスの背筋に寒いものが走る。
意味が分からない……
「意味なんてないよ。
神魔は殺しあう――それがこの世界での理さ。
戦って、殺しあって、勝った方がより豊かになるのさ、実にシンプルなことだよ。
決まっていることなんだ。」
まただ……
決まってる、その一言ですべてを片付けられてしまう。
なんで、どうして決まっているの?それってどうでもいいこと??
「なによ、やっぱり何も答えられないのね。
インストーラーとか大層なこと言っておきながら、やっぱりただの白いイタチじゃない!」
イライラが止まらず、ヒステリックに当たり散らす。
「し、失礼なことを言うもんじゃないよ!僕は常に聖王に寄り添う神獣としても祀られて――」
「つまり、シロは聖王のペットってことよね」
「ちょ!?君は人の話を聞いてるの?」
「聞いてるわよ、失礼ね。常に聖王に寄り添う喋る愛玩動物――なんでしょ?」
クリスはブラン――いや、ペットのシロに笑顔で応じる。
「ちょっと、なんでモノローグまでシロに変わってるの!?」
「いいじゃない、どうせブランって名前だって白とかその程度の意味なんでしょ」
「それは――」
「決まり、ね」
クリスがシロを見つめる。笑顔の底の眼は笑ってはいない。
「だから――がっ!?」
再びクリスの手に力が入り、ギリギリとシロを締め上げていく。
「大丈夫、怯えているだけなんだよね……」
「え?、なにそれ、こわ……い……」
「ほら、怖くない――、怖くない――」
「うっ……ぼ、僕はキツネリスじゃ……な……」
ブクブクと泡を吐いて気絶する哀れな白イタチ……
「ほらね、怖くない♪」
そう言って絞め落としたイタチをベッドの脇に放り投げ、自分も大の字になる。
疲れた。今日は、本当に……
ゆっくりと目の前の景色が暗くなっていくのに心地よささえ感じる。
次に目を開けた時、すべてが夢だったら……どんなに幸せだろうか。
クリスはゆっくりと眠りの淵へと落ちていく――




