世界の理(ことわり) その7
「困るんだよなぁ、そういうの……」
目の前のイタチが迷惑そうな顔でブツブツ言っている。
「何が困るのよ。いいじゃない」
「いや、だから、僕はインストーラーのブ……」
「白いイタチだから、シロ!」
クリスは目の前の白いインストーラーの名付け親になっていた。
戴冠式が終わり、鎧を脱いでクリスはベッドに大の字に寝転がった。
「つ、疲れた……」
何人もの聖職者や貴族の挨拶を受け、その間ずっと背筋をピンと正していたので肉体的にも精神的にも疲れ切っていた。
ふと、窓の方に気配を感じて視線を送る。そこには白いイタチが身体を起こし、こちらを見つめていたのである。
「やぁ、クリス。ようやく君と話せるね」
目の前のイタチが喋ったことにクリスは驚き目を見張る。
「はじめまして、月宮来栖。僕はブラン、君をこの世界に最適化するための導入者だよ。」
「インストーラー?」
「そう、君はこの世界に転生……」
「ちょっと待って!今、来栖って言った?」
「え?あ、そうだけど――」
「やめて!私はクリスよ!」
クリスはブランから本名で呼ばれたことに激しく反応した。
「わ、わかったよ。それで、クリス、君はこの世界に――」
「聖王として、転生した。そうよね?」
「あ、うん。それで――」
「神族を率いて魔族と戦い、魔王を滅ぼせ、って言うんでしょ?」
「……はい」
「私が元の世界に戻るには魔王を倒すしかない。魔王を倒すために勇者を探すんだ――ってことよね?」
「そ、そう、その通りだよ!飲み込みが早いね」
嬉しそうにブランが答える。だが、次の瞬間、クリスにその長い胴を両手で掴まれ締めあげられた。
「ちょ、く、クリス??苦し……」
「なぁーにが、飲み込みが早い、よ」
クリスがギリギリとブランを締め上げる力を強める。
「アタシがこっちの世界に来て何日も何日も放っておいて、今更現れて、君は聖王、人類の希望――?
はっ、笑わせるんじゃないわよっ!
アンタが私に提供できる情報ぐらい、全部セラスから聞いてるのよ!!」
クリスは戴冠式の後、セラスから聖王の役割と自分の運命について聞かされていた。
転生したということは、おそらく元の世界では私は死んでいるか、死ぬ寸前だということ。
転生前の記憶は断片しか持っていないということ。
そして、元の世界に戻るには魔王を倒すしかないということ。
「本来、それらはインストーラーがすぐに現れて私に教えることになるって……アンタいったい今までどこで何してたのよ?」
「し、死んじゃう、死んじゃうから、それ以上締めないで……」
ブランは泣きながら懇願する。
「か、監視がキツくてとても姿を現せる状態じゃなかったんだよ!」
息も絶え絶えにブランが言い訳する。
「……他に、言うことがあるんじゃないの?」
掴んだブランを顔の前に持ってくる。じっとりと、その小さな顔を覗きこむ。
「言うこと……?って、苦しい、息できないよっ!!」
疑問形が気に入らなかったのか再び力が入る。
「悪いと思ったら、ごめんなさい、でしょ?」
「ごめんなさい!ごめん、ごめんってば、お願いします、命だけは――」
そう言ったところで、クリスはブランの手を離してやった。
「で、インストーラーとやらは、私をこの世界に適用するために他に何をしてくれるのかしら?
武器になって、戦闘をナビゲーションしてくれるの?
それとも、倒した敵から魔力とか、心の花とか回収したりするのかしら?」
「えっと……僕は君にこの世界の情報を与えることくらいしかできないんだけど……」
「へぇ、じゃぁ、ほとんど存在価値がないわけね」
きっぱり、と断言され、ブランは慌てて自分のメリットを説明し始めた
「いや、ほら、魔法の使い方とかレクチャーできるよ!君はまだ治癒魔法とか使えないだろう?他にも色んな魔法の使い方を教えられるよ!」
「へぇ、他には?」
「えっと……だから、この世界の仕組みとか、魔族のこととか……」
「ペットね」
「へ?」
突然、ペットと言われて、ブランはきょとんとクリスの顔を見つめる。
「アンタ、見た目は結構可愛いから、ペットにしてあげるわ」
にっこりと笑う笑顔の奥底に悪意を感じる。
「ちょ、ま……。ペット?インストーラーの僕が!?」
「白いイタチだから、シロ!」
今度は屈託のない笑顔でクリスはブランを指した。




