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世界の理(ことわり) その4


「……世界を――この……世界を――変え……る――?」

 少女はぼんやりと天井を見つめる。薄暗い部屋にランプがひとつ、天井から吊り下がり、ゆらゆらと赤い炎を揺らしていた。

「マスター……お目覚めですか?」

「ステラ……さん?えっ!?無事……なんですかっ!?」

 横で心配そうに見つめているステラを確認すると、七海は慌てて起き上がる。

 ガンッ、と勢い余ってランプに激突し、おでこを打ってしまった。

「っ、いったーい……」


「……七海……ドジっ子……」

 ステラの横には笑いをこらえているシグナスの姿もあった。

「シグナスっ!良かった、無事だったんだっ!」

 七海は思わずシグナスを抱きしめる。

「え……?え……?な、七海、苦しい……」

 抱きついて、猫を撫でるようにわしゃわしゃと頭を撫でてくる同じ年頃の少女にどう接すればよいか――シグナスは混乱している。

「マスター、私も、シグナス様も貴方の力に助けられたのですよ」

「力……?」

 シグナスを撫でる手を止め、七海はステラの方へ向き直った。

「ええ。大いなる力です」

「――そんな、私は自分の力が制御できなくて……草や木がいっぱい……」


「見事な、治癒魔法(ヒール)でしたな……」

 不意に背後から水差しを持って老人が部屋に入ってきた。黒い粗末なローブを身にまとい、荒縄をベルト代わりにしているようだ。

治癒魔法(ヒール)?シグナスが使う、傷を治す魔法のこと?」

「……そう。」

 七海の視線にシグナスがコクリ、と短く答える。

「七海のヒールはシグナスのヒールとは比べ物にならないくらい強力……。シグナスのヒールは怪我を治すだけ。七海のは枝や、枯葉も再生させる……」

「……違う。私の力はそんな優しいものじゃ……。見たでしょ?街を飲み込むような勢いで緑が広がって……」

「――ものは捉えようじゃな」

 自分を責める七海をあやすような声で老人が割って入った。

「貴方のヒールは時を遡る程に強力なんじゃ」

「――時を……遡る……?」

「生き物はみな、治癒力を持っておる。ヒールとはその速度を操る、いわば時間魔法のようなものじゃ。通常は治癒にかかる時間を早める……つまりは時を進める魔法じゃが……貴方のヒールは枯葉を若葉に戻し、種に戻し、更にそれを成長させて大木に変える。先ほどは魔力が暴走し、そのサイクルを無限に繰り返すような状態だったのじゃろう。」

 老人が優しげに微笑みかける。


「この方が、気絶したマスターと我々をこの場所へ運んでくれたのですよ……」

「あ、ありがとうございました。得体も知れない私達を――こんな親切に……」

 ステラがそっと七海へ耳打ちすると、七海は丁寧に感謝の気持を述べた。


「ほっほっほっ、得体が知れないこともないんじゃよ」

 老人は軽快に笑うと言葉を続ける。

「風の旅団の治癒師(ヒーラー)、シグナス」

 老人は水差しからコップへ水を一つづつ注ぐと、それをシグナスに手渡す。

「……?」

 シグナスはきょとんと目の前の老人を見つめた。

「そして、星空の魔人――いや、もう魔神と呼ぶべきじゃろうか……。ステラ」

「!?な、なぜ私のことを――」

「答えは急がんでも良かろう……」

 ステラの言葉を制し、コップを手渡す。

「そして、魔王――、七海」

 魔王、その言葉に場が凍りつく。

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