世界の理(ことわり) その1
「聖王陛下万歳!」
「おかえりなさいませ、陛下!」
万感の歓声が鳴り響く中、クリスは歩を進めていた。右横にはホークが寄り添い、二人は仲良く並んで進む。
緊張からクリスは右手と右足が同時に前に出てしまい、動きがカクカクしていた。横のホークは……というと、これまた同様にカチカチで両手足同時に前に出して行進している。おかしなことに、クリスが左足を出すとホークはピッタリ同時に右足を出し、息がピッタリあっていた。その様子はおもちゃの兵隊がぎこちなく前に進む様に似ている。
「な、なんでこんなことになってんのよ?」
クリスがホークに小声で聞く。
「し、知るか!気づいたらこうなってたんだ。お前こそ覚えてないのか?」
ホークに聞き返されてクリスは自分の身に起こったことを振り返る。
「……ジークフリートとかいう怪物を追い払って……それから……」
それから先がどうにも思い出せない。
勝ち誇ったように高笑いをした記憶はあるのだが、すぐに目眩がして倒れてしまった。きっと力を使いすぎたのだろう。
次に目が覚めた時には城にいた。
馬車の中でふっと目が覚める。目の前に巨大な城門がそびえているのが見えた。クリスの乗る馬車はその城門に吸い込まれて行く。城門を通り過ぎると、石造りの連絡橋にでた。城は前後に二つ、連なっているようだった。最初の城門を通り抜けた先にある連絡橋は200メートル程もある長大なもので、ちょうど真ん中あたりには正方形のスペースがあり、両脇には衛兵が立っている。
橋の上から見上げると更に一回り大きな城が見えた。城の四隅には尖塔が立ち、中央にはどっしりとした本城がある。凸凹と連なった胸壁がぐるりと城を取り囲む。三段重ねに胸壁が巡らされ、最上段の胸壁の上には円筒形の天守がそびえ、その頂上には剣を天高く掲げた戦士の像が金色に輝いている。城全体に大理石を使っているのか、外観が真っ白であり、戦闘を意識したどっしりした作りであるのに優美な印象を受ける。
「お帰りなさいませ、陛下。」
連絡橋の向こう側、白い居城の城門に達したところで馬車が止まると、白髪で細身の紳士が恭しくお辞儀をして出迎えてくれた。
「さ、さ、こちらへ……式のご準備がございます。」
ただそれだけ告げられ、慌ただしくメイド服を来た女官達に連れられてクリスは衣裳部屋に入った。
「ちょ、ちょっと式ってどういうことよ!?誰かと結婚させられるわけ……!?」
女官達がいそいそと衣装を探しているなか、クリスは抗議の声を老紳士に向ける。
「結婚式とは、ちょっと気が早うございますな……。聖王陛下を叙任する戴冠式でございますよ。」
「じょにん……??たいかん……??」
クリスは言葉の意味がわからず老紳士に聞き直す。
「教皇様から聖王として認められることを叙任と申します。また、叙任の際には教皇様から王冠と剣を与えられます。教皇様手ずから王冠を戴くことになりますので、戴冠式と呼ばれております。」
「……ああ、そういうことね。」
老紳士が丁寧に説明すると、クリスは彼には目を合わせずに言った。目が泳いでいる。
「ちょ、な、何よそれ?」
「はぁ……戴冠式用の衣装でございますが……」
クリスの問に女官が不思議そうに答える。
「戴冠式って鎧を着るわけ??」
クリスの前に引き出されたのは青々と輝く鎧であった。
「ええ、もちろん。聖王様の正装は代々鎧でございますから……」
「ア、アタシ、鎧なんて着たことない……」
「問題ございません。陛下は立っていていただくだけでよろしいのです。」
抗議の声を無視するように女官はてきぱきとクリスに鎧を装着していく。
クリスは女官たちによってあっという間に鎧姿となっていた。
彼女のためにオーダーメイドで作られたのか、サイズはぴったりであった。真紅の鎧は身体のラインをくっきりりと出すデザインであり、その上からこれまた真紅の大マントを羽織らされている。不思議と鎧の重さは感じない。
「……軽い……のね?」
「ええ、もちろん。これは特殊な金属に魔法をかけて強度を増した特注品でございますから……
とてもお似合いでございますよ、陛下。」
老紳士が目を細めながら言った。
「……当然よっ!アタシは何を着ても似合うんだからっ!!」
褒められて気を良くしたのか、それとも姿見に映る自分の勇姿に見惚れたのか、クリスは仁王立ちで答えた。
そんなやり取りの後、クリスはこの行進をしていた。
「あ、アタシが王様になるんでしょ?」
ヒソヒソとクリスはホークに聞いた。
「……そうらしいな……。俺は勇者らしい。」
嫌そうな声でホークが答える。
「はぁ?なんでアンタみたいな弱っちいのが勇者なの?」
「ちょ……、おまっ!?弱っちい!?誰のおかげで……」
「誰のおかげで助かったと思ってるのよ?」
ホークの言葉に被せるようにクリスが言う。ホークも痛いところを突かれて黙り込む。
「お二人とも、真剣に……」
後ろからこれまたヒソヒソ声で老紳士に注意された。
「はい……」
二人は諦めたような低いトーンで、声を合わせて言う。
その視線の先には絢爛豪華な玉座が鎮座していた。
8/11、加筆修正しました〜。




