聖都燃ゆ その2
「ベルトラン公、南街区の敵はほぼ撃退しました。」
不意にジャンの傍らから甲冑に緑色のマントを纏う騎士が報告する。
「ご苦労、少佐。我々の守備範囲では大体片がついて来たということだな……」
「北街区はいかが致しましょうか?」
少佐は上司であるベルトランに指示を求める。近衛師団において、緑色のマントは職位を表しており、同時に階級が分かる。
近衛師団では緑マントは大隊長で少佐と相場が決まっているのだ。
ちなみに、連隊長は緋色のマントを羽織っているはずだが……ベルトランは甲冑どころか胸当てすらつけていない。
彼がいつも着ている、エンジ色の革の小袖を鎖帷子の上から羽織っているだけだった。暑いからと兜はかぶらない。
なぁに、俺は背が低いから戦場では目立たず、攻撃されないから大丈夫さ。
質されると彼は必ずそう答えた。実際、今のところ狙われてはいないようだ。
「北街区か……」
そう呟くと、遠く北街区を望む。教会が立ち並ぶブロックが激しく燃えているようだった。
「……先ほど、巨人が吊られて落ちていくのが見えたな。」
ベルトランはついさっき城壁上にいる数小隊を集めて4匹のあわれな飛竜が重量オーバーの巨人を運んでいたところを撃ち落とした。
撃ち落とした場所は運悪く教会領と呼ばれる北街区だったのだ。
聖王国には二つの騎士団が存在する。各都市の守備と、魔族や近隣諸国への備えとして聖王騎士団が存在し、それとは別に聖教会自身を守るための聖教騎士団だ。
北街区は教会施設が密集しており。いかに緊急自体であっても聖教騎士団の守備範囲に支援要請もないのにノコノコ出かけていくことはできない。
「こいつは弱ったな……」
ベルトランは吐き捨てる。
「救援要請は来ているか?」
「申し訳ありません。何度か問い合わせておりますが、自分たちで対処できるとの一点張りで……」
少佐が申し訳なさそうにベルトランに回答すると、ベルトランは手で静止するそぶりを見せた。
「なに、少佐が気に病む必要などない。彼らが自分たちで対処できるというのであれば、その通りなのだろう……
念のため、片付いた所から兵を抜き、北街区の近くまで移動させておくのだ。ありったけの矢を一緒に持っていくんだぞ?」
「はっ!了解いたしました。」
短く敬礼すると、バタバタと少佐は駆けていく。自分よりも一回り年長の士官をベルトランは満足そうに見送った。
「我が隊はよくやっているな……」
すべてが腐っている訳ではない。そう続けようとする言葉は飲み込んでおいた。
遠く北街区は燃え続けているものの、それ以外の地区は混乱が収まりつつあった。
「無理に追い討つ必要はない。」
ベルトランは背を向けて逃げる敵兵をボウガンで狙う城兵を制止した。
「死兵は何をするか分からない。逃がしてやれ……」
そういいつつも、鋭い眼差しで逃げ散っていく降下猟兵を見据えていた。




