勇者誕生! その7
「貫けっ!ソード・レイン!!」
如何にもたった今思いつきました、という術の名をクリスは叫んだ。
号令一下、待ってましたとばかりに無数の刃が降り注ぐ。
一つ、一つ、星空に流れる流れ星の様に、様々な形をした剣……というか刃物が落ちてくる。
剣、槍といったオーソドックスなものから、メイス、モーニングスターに、棍棒。果てはハサミ、カッターナイフ、包丁、何故かスプーンまでが雨あられのように猛烈な勢いで降り注ぐ。
「いっけぇぇぇぇぇぇええええええっ!!」
「おやおや、こんなもので――」
ジークフリートは最初こそ余裕ぶって、空中に飛び上がり、降り注ぐ刃の嵐を鎌で薙ぎ払う。
だが、密集した刃の集中砲火を避けきることは不可能であった。
「くっ!」
術の効果が切れたのか、空に展開していた魔法陣が消滅する。ジークフリートの左肩に二本、日本刀と、ダガーがつきささっていた。
「……ボクにここまでの深手を負わせるとはね……。」
ジークフリートが眉間に皺を寄せつつ、日本刀を引き抜く。紫色の血が溢れ、地面を染めた。
「コツは今ので掴んだわよ。」
クリスが手を組んでコキ、コキと手首のストレッチをする。そして勢いよく両手を振り降ろすと両掌に二回りほど広い金色の魔法陣が展開していた。
「……へぇ、たった一度の術式で、そこまで使いこなせるようになるもんなんだね。」
感心、感心、と残ったダガーを引き抜く。と、同時にクリスへと投げつけた。放たれた刃は一直線にクリスの眉間へと迫る。
だが、クリスは顔色一つ変えなかった。目を見開くと、その瞳が翠色に淡く煌めく。
瞬時にクリスの眼前に淡い翠色の魔法陣が展開し、ダガーはそれに触れた瞬間、蒸発した。
「お見通しなのよ!」
右手を勢いよく振り上げるとジークフリートを指さす。無数のダガーが結界から放たれた。
「おっと……」
ジークフリートは宙返りをして、難なく躱す。着地と同時に大鎌を構えてクリスに迫る。
「やっぱりキミはこの場で殺すことにするよ♪」
楽しそうな声と裏腹に、強烈な殺意がクリスに向けられる。
「このっ!」
クリスは先ほどと同じように左手でジークを指さす。無数の刃が放たれる。だが、それはジグザグに突進してくるジークフリートを捉えることはできなかった。
「そんな直線的な攻撃、ボクに何度も通じると思ってるのかい?」
冷たく言い放つ。クリスの眼前で大鎌を振りかぶり、その小さな身体を両断しようと迫る。
「いやぁぁぁぁあああっ!!」
クリスが頭を抱えてしゃがみこんだ。
「ゲーム・オーバー……だよ!」
ジークフリートの声が響く。その顔は狂喜と悦楽に満ちていた。
「……なんちゃって♪」
悪戯っぽくクリスが笑い、チロっと舌を出して見せた。
刹那、クリスの足元に金色の魔法陣が展開する。しかし、ジークフリートは攻撃のモーションに入っており、そのままクリスに目がけて大鎌を振り降ろしていく。
「スピア・ストームっ!」
キッとジークフリートの目を見据え、クリスは術の名を唱えた。
同時に地面から無数の細い槍が放たれる。
「こ、こんなっ!?」
大鎌を振り降ろす先を変え、飛び出してくる槍を打ち払うが、クリスの間合い深くに踏み込んでしまったために全てを避けることができない。ジークフリートは翼を広げて空へ逃れる。逃れる際に翼は穴だらけになり、左脚は千切れるほどに深手を負った。
「惜しいっ!あと少しだったのに!」
クリスが無邪気に声を上げた。
「降りてきなさいよ!」
「本当に面白い子だね……。ここは一旦ひかせてもらうよ。」
そう言ってジークフリートは高く飛び上がる。
「待ちなさい!勇者がどーとか、教えるって言ったのはどこに行ったのよ?」
クリスが空に向かって叫んだ。
「そっか、ボクとしたことが忘れてたよ。君と君の騎士は"血の契約"で結ばれた。君は人間世界の王で、君を守る騎士は勇者様、というワケさ。」
「……私が『人間世界の王』?ちょっとーっ、意味わかんないんですけど!?」
「その辺はすぐに分かると思うよ、聖王様――」
空中で踵を返すと、ジークフリートは赤く燃える雲の中に消えていく。
去り際に彼は一言残していった。
「そうだ、君の勇者様を助けてあげないとかわいそうだよ!」
クリスがハッと気づく。見ると、最初の術式で埋め尽くされた刃の林に彼はいた。ホークは逆『く』の字、つまりエビ反りになって刃の雨から逃れ、奇跡的に無傷でいた。
だが、彼の喉元スレスレには、ちょっとでも触れたら大量出血必至な鋭く砥がれた日本刀が刺さっている。
「俺って、いつもこんな扱いじゃね?」
ホークはポツリとつぶやいた。




