勇者誕生! その6
クリス覚醒!その結末は…
「さぁ、殺し合いの時間だよ……」
ジークフリートがにやりと口元を歪める。次の瞬間には忽然と姿を消していた。
「う、上よ!ホーク、気を付け――」
「右だ、馬鹿っ!」
ホークは叫ぶとクリスを突き飛ばす。同時に体を大きく後ろに逸らして鎌の斬撃を躱した。目の前を鉄の塊が通り過ぎる。
クリスも突き飛ばされて転ぶ瞬間に自分の頭上をかすめる何かを感じていた。一瞬遅れていたら……、と思うと冷たい汗が流れる。
「ほら、ほら、もっと必死に!」
ジークフリートは子供が新しいおもちゃを得たように嬉々として次の斬撃を繰り出してくる。
ガチン、ホークは地面に剣を突き立てその斬撃を受ける。そして剣先を強く蹴り上げると土煙とともにジークフリートの腕が上がった。ジークフリートは土煙に視界を奪われている。
「これならどうだっ!」
剣から左手を離して、拳を作るとジークの横っ腹を目がけて打ち下ろす。その一瞬の動作の間、拳に小さな魔法陣が現れ、スーッっと甲から刃が現れる。
今度はジークフリートがのけぞる番であった。伸びあがっている勢いを駆って一回転し、間一髪でホークの一撃を躱すと、着地と同時に水平蹴りをホークに打ち込んだ。
「……くっ。」
ホークは肩をよじって直撃を免れたが勢いで後ろによろける。
「いいね!実に楽しいよ!」
クルクルと高速で鎌を左右に回しながらジークフリートが突っ込んでくる。
ホークは正確なリズムで後退しつつ、全ての斬撃を躱していく。だが、ちょっとづつ、ちょっとづつ、身体にかすっているのか、幾筋もの傷跡が次第に増えていった。
「ホラ、ホラ、ダンスだ!テンポを上げていくよ!」
ジークフリートの斬撃の速度がどんどん上がっていく。ホークは次第に深く切りつけられる回数が増えてきた。
「……チッ、このままだと分が悪いな……」
「どうしよう……。」
クリスには遠目に見ていることしかできない。
手を貸したくても自分には何もできないことくらい彼女自身がよく分かっていた。
「でも、このままだとアイツが……。」
唇をきゅっと噛む。
悔しい。どうしてアタシは守られることしかできないの。
「……アタシにも力があれば……――!?」
そうつぶやいたところでクリスはハッとする。
アイツの力はアタシが与えたもの……、アタシにだって同じ力があるんじゃないの!?
そうよ!きっとあるはずよ。なきゃおかしい。
「出ろ~……剣よ出ろ~……。」
クリスは両腕を天に上げて、ぶつぶつと唱えだした。
その姿を横目にホークはジークフリートの斬撃を受け続ける。
「……あれは、何をやってんだ……。」
「ふふ、君のお姫様は実に独創的だねっ。」
ジークフリートが楽しげにステップを踏む。そのたびにガチン、ガチンとホークが剣で合わせ、体を捻って躱している。だんだんと息が上がってきているのが分かる。
「君も、あの子も、いつまで続くかな?」
ジークフリートは不敵に笑った。
「出ろ~、出ろ~……。」
一方のクリスは奇怪なダンスを始めている。地団太を踏み、手を上げ下げして呪文のようにデロデロ唱え続ける。
「ぷっ……、ははっ!」
その姿にジークフリートがたまらず吹き出すと、ホークはその瞬間を見逃さなかった。
素早く顎に肘打ちを入れる。ジークフリートの体がのけ反ると、肘を戻すモーションで斜めに切り下げる。
「よそ見がすぎるぜっ!」
だが、斬撃は虚空を切った。ジークフリートは空中で一回転して斬撃を躱す。
と、同時に小さく鎌を回すと付け根に近い柄の部分でホークの膝をすくった。足を取られたホークは態勢を崩して後頭部から地面に激突した。
「っつ……痛ぇっ……。」
頭を抱え起き上がろうとすると眼前には鎌の切っ先があった。
「チェック・メイト。結構楽しめたから、時間をあげる。三つ数える間にお祈りを済ませなよ。」
悪戯っぽく、ジークフリートが笑って見せる。
「くっ……!」
剣を握る右手に力を籠める。だが、その瞬間、ジークフリートの足が手首を踏みつけた。
「……っつ!?」
「ひとーつ。」
馬鹿だね、分からないとでも思うのかい?そんな嫌らしい笑みが降り注がれる。
「ホーク!?ウソ、ウソ、ウソ!?お願い、出てっ!!」
クリスが一生懸命両手を振る。だが、なにもおこらなかった。
「……まだだっ!」
ホークの左手に光が灯ると、魔法陣が描かれる……だが、それが完成する前にジークの左足がそれを踏みつけた。
「ふたーつ♪」
これから行う殺戮が楽しみで仕方ない、声音がどこか上擦っている。
「お願いっ、お願い、お願いっ……!」
クリスは目を閉じ、両手を突き出して祈りの叫びをあげる。
ホークの両腕を踏みつけ、馬乗りになったジークは大きく鎌を振りかぶった。
真後ろにのけ反り、恍惚の表情を天に注ぐ。空は魔族の襲撃で燃え盛る炎と煙で禍々しい曇天となっている。ジークフリートにとって理想的な空気だった。血と、生き物が燃える臭い。彼我が上げる怒声と一方的に殺戮される者たちの断末魔の叫び。すべてが心地よい。
「お願い、出てっ!!」
周囲の音を全てかき消すようなクリスの声が響いた直後に、それは起こった。
「みっつ!!」
ジークフリートが目を見開く。だが、そこには彼の理想とする曇天はない。代わりに巨大な魔法陣が神々しく、金色に光輝いていた。
「……なっ!?」
ジークフリートの顔が驚愕に変わった。巨大な魔法陣には境界面があり、キラキラと銀色の光を放っている。数十メートルはあろうかという巨大な魔法陣から無数の鋭い刃が顔を覗かせていた。
「で、できたっ!?」
クリスが喜びの声を上げる。ジークフリートは目を見開いたまま、魔法陣を凝視していた。無数の刃が今にも降り注ごうとしている。
「ちょ、ちょ、待て、俺もいるんだぞ!!」
ジークフリートに両腕を踏まれ、自由を奪われたままのホークの声が空しく響く。
「ジークフリート……、貴方を滅するっ!」
急激に自信をつけたのか、その右腕を誇らしげに天に掲げた。ホークの言葉は聞こえていない、というよりも意図的に無視している感じであった。満面の笑顔でワクワクが止まらない、といった表情をしていた。まるで、新しいおもちゃを手に入れ、遊びたくて仕方がない、そんな顔をしていた。
「待て!待て!待て!」
ホークが呪文を唱える。だが、なにも起こらなかった。
「お・し・お・き、が必要よね。」
にんまり、とクリス口元が緩んだ。
「ボクとしたことが……うかつだった……かな?」
天を仰いだままジークフリートの笑顔が引きつった。
召喚主に忠実な刃たちは境界面から顔を出して律儀に命令を待っている。
「貫けっ!ソード・レイン!!」
いまいち緊張感の欠ける戦場にクリスの声が轟く。




