勇者誕生! その5
「頭が残念なのかな?」
地上に降り立ったジークフリートがクリスに言い放った。
「ちょ、ど、どういう意味よ!?」
クリスがジークフリートに食って掛かる。
「そのままの意味だよ。何で、ボクが君を口説かなきゃいけないのさ?意味が分からないよ。」
やれやれ、といった感じで両方の手のひらを上げ、首を傾げて見せる。
「ち、違うっていうの?じゃぁ、何のためにこんなことを……。」
「いや、普通に考えて違うよね?女の子ひとり口説くのに、一国の首都を攻撃したりしないよね?」
本気で違うのか…、という態度を取るクリスにジークフリートが逆に慌ててしまうほどである。
「そう言えば、ガブリエルはどうしたのよ?アナタと戦ってるはずじゃ……。」
クリスは今の状況に陥る前のことを思い出した。ガブリエルがクリスを守ってジークフリートと戦っていたはずだ。
「彼かい?彼なら、ほらその辺に……。」
そう言ってクリスの後ろの方を指さす。そこには傷つき倒れたガブリエルの姿があった。
「ひ、姫様……、申し訳ありません。不覚を取りました。」
ガブリエルがクリスの視線に気づき、申し訳なさそうに言う。
「なによ、大口叩いといてそのザマは!?」
容赦なくクリスはガブリエルを叱責する。
「どうしてこんなひどいことを……っ!?」
同時にジークフリートに対し、激しい感情をぶつけるため、前にでようとする。
「……気をつけろ、こいつは魔神だ。」
ホークは冷静にクリスが前に出るのを防ぐ。斬馬刀から変化したロングソードでクリスの前進を止めた。
「君が今度の勇者になったんだね。弱そうだなぁ……。すぐに殺しちゃいそうだよ。」
ジークフリートが不敵に笑う。その笑みには殺気が込められていることが容易に分かった。
「勇者……だと?どういうことだ?」
ホークが警戒しながら、ジークフリートに対峙する。相手はリラックスしているようで臨戦態勢であることがホークには分かった。戦士としての勘である。
「君たち、本当に何も知らないんだね。いいよ、ボクを楽しませてくれたら教えてあげるよ。」
「楽しませる?どういうことよ!?」
ジークフリートの言葉に身を乗り出してクリスが問う。
「そんなの、決まってるじゃないか!!」
視界からジークフリートが消える。
一瞬のうちに頭上に移動していた。死神が持つような大鎌を振りかぶり、薙ぎ払う。
ガチン、という鈍く金属がぶつかる音と、キチキチと刃がこすれる嫌な音がした。
クリスは瞬きもすることができず、目の前で大鎌がロングソードに受け止められている光景を見た。
時折、ガチガチとこすれる二つの刃物から火花が散る。
「思ったよりもやるね。ボクを楽しませてよ!」
そういって鎌の湾曲する部分で剣を引っかけ、上すべりさせる。
ホークはその手に乗るかと、ジークフリートのみぞおちに蹴りを入れ、強引に体を引きはがした。
「いいね、いいよ、君っ!その必死な感じ!ボクは好きだよ!」
鎌を下に寝かせた状態で構えながらジークフリートが言い放つ。
「さぁ、楽しませておくれ!血しぶきを!悲鳴を上げておくれ!そして命乞いをするんだ!殺さないで…ってやつじゃないよ。殺してくれ、苦しいよ、殺してくれって!泣き叫ぶんだ。それくらいボクを楽しませておくれよ!」
端正に整った顔が醜く歪む。戦闘狂という名がぴたりと当てはまるような狂乱ぶりだ。
「さぁ、殺し合いの時間だよ……」




