勇者誕生! その2
「やっちゃいなさい!」
クリスが命じるのとほぼ同時にホークは駆け出した。
ギガンテスはそれに気づいたのか棍棒を横に薙ぐ。だが、ホークは飛び上がるとそれを躱して剣を一閃する。体表を硬い鎧の様な皮膚でおおわれているはずのギガンテスの腕から血しぶきが上がった。
すると、ギガンテスは棍棒を捨てた。腕の腱を切られ、棍棒を保持できなくなったようである。素手を振り回してホークを捉えようとする。
素手といってもこの巨体である。また、先ほどその素手で叩き落とされて品詞の目にあったばかりだ。
ホークは左右に素早く移動することでその攻撃を躱しつづけた。
「見た目より素早いな……。」
棍棒を捨てたギガンテスはその巨体とは不釣り合いな素早さであった。
「だが、弱点がないわけではない……。」
ホークは僅かな時間でこの素早い巨体の弱点を見出していた。
ギガンテスは上半身だけが異常に発達しており、脚は貧弱だ。その証拠に腕を振り回すばかりで殆ど移動していなかった。降下猟兵専用に調達された局地戦用の兵器、ということであろう。
「足元がお留守だぜっ!」
ホークは両手の間隙をぬって素早く足元に達すると、剣を横に薙いだ。ギガンテスは右足のアキレス腱辺りを切り裂かれ、大きく体勢を崩す。だが、戦意は失っていないというべきか、暴れることだけが目的なのか、腕をぶんぶんと振り回し、手当たり次第に破壊を続けている。
「……今、楽にしてやる。」
ホークが大きく地面を蹴って飛び上がる。剣を振りかぶると再び魔法陣が現れ、剣を金色の光に包む。
「うぉぉぉぉおおっ!」
一閃――、ギガンテスの巨体が縦に両断された。
地響きとともにその巨体が崩れ落ちる。
「やった!すごい!!」
ホークは目の端で飛び跳ねて喜ぶクリスを捉えると、振り返って親指を立てる仕草をした。
「やったわね!」
クリスはホークに駆け寄ると、興奮気味に語る。
「ぶわーって剣から光が出て、あのデカブツを両断したのよ!」
小さい身体で両手をめいっぱい広げ、その光景を描写しようとしているらしい。
「あんな力があるなら最初から使えばいいのに――」
「いや、俺にも何が何だか……。一回やられて気が付いたらこんな風になっちまった。」
ホークも少し興奮気味に自分の剣を見つめる。確かにあの時砕けた剣が今は斬馬刀の様な大きさになっているのである。
「だけど、このサイズは正直扱いにくいな……」
あまりにも長大な剣に少し恨み節をつぶやくと、また剣の柄に魔法陣が現れた。
「え、何?」
クリスが不思議そうに覗き込む。すると、剣は再び光に包まれると今度はホーク好みの切っ先がやや膨らんでいる細身のロングソードに変化していった。
「うぉっ、何だこりゃ!?」
ホーク自身、目の前の光景に目を丸くした。
剣はホークが望む姿に変わるようであった。いや、ホークが望めば剣の形を変えられる、といった方が正しいだろう。
「すごい……これなら……」
ホークとクリスは同時に言った。
「高い枝も楽々切れるわね!」
「もう剣を買わなくてもいいんだな!」
……しばらくの沈黙が流れる。
「何よそれ、ケチくさいわね。」
「お前こそ、何で剣で植木屋のマネしなきゃいけねーんだよ?剣は兵隊の命なんだぞ?」
ホークの一言にクリスはカチン、ときたのか食ってかかる。
「はぁ?何よそれ。剣も高枝切ハサミでも、何かを切るって目的は一緒でしょ?人は切れても枝は切れないっていうの!?」
「……い、いや、そういうことではなくて……。」
「じゃぁ、どういうことなのよ?」
これだから女は面倒くさい……、ホークは随分年下の少女に口では勝てないと悟ったようだった。
「それより、どうしてこんな力が……」
あ、話題を逸らした……と、クリスは気づく。だが、そちらの問いの方が興味深かった。
ホークは一度、倒された。息もしていなかった。それはクリスが一番よく知っている。
や、やっぱりアタシのキスが原因よね……。
これって、アレかしら。アニメでよくある展開ってやつ?
お姫様がキスでナイトに力を授けるっていうのかな……。
ってことは、私はやっぱお姫様ってことよね!?ガブリエルも姫、姫って呼んでたし。
この男もそこそこ美形だし、ガブリエルは超イケメンだし、これって乙女ゲー的な展開なのかしら――
ってことは、アタシを巡ってイケメンたちが争うってこと!?
そう言えば、ジークって敵っぽい人もイケメンだった!
私を狙ってこの大騒ぎを起こしてるっぽいし……
「こ、これは本格的に乙女ゲー展開かしら!」
「お、おい、大丈夫か?ヨダレ出てるぞ……」
ホークの言葉にクリスが我に返る。
しまった。声に出ていた……。
「な、何でもないわよっ!それより……分かったわ。」
クリスがホークに向き直る。
「アンタがそのすごい力を得た原因と、理由が、ね。」




