ミラクル・キス その8
「何考えてんのよ!?バカじゃないの!?」
クリスは泣きながらホークにすがった。
「死んでも守るんでしょ!?アンタが死んだら誰が私を守るのよ!?」
もう自分でも何を言っているのかよく分からない。ホークは地面に叩きつけられてからピクリとも動かない。
握った手から徐々に温もりが失われてきている。
アタシが死んでも、なんて言ったからだ……。
まだ、名前も聞いていないのに……。
そう、心の中で呟くとクリスはハッと気付かされる。
この人、アタシの名前も知らないんだ……。
名前も知らない、出会ったっばかりの人のために命をかけて助けようとした……?
どうして……逃げればいいのに……。
バカよ――
クリスは倒れたホークの頭を撫でる。不思議と顔は苦悶ではなく、穏やかに目を閉じていた。
「何よ!?美少女守って死ぬ俺、カッコイイ!とでも思ってるの!?我が生涯に一片の悔いなししってわけ!?
状況は何も変わっていないじゃない!」
事実、状況は何も変わっていなかった。いや、むしろ悪化している。目を傷つけられたギガンテスは怒り狂って暴れている。手当たり次第辺りに転がる瓦礫をつかみ、そこら中にぶちまける。
クリスはだんだん腹が立ってきた。コイツ、全然私を守ってくれていない。勝手にやられて、まったく許せない。
そう簡単には死なせない。アタシをあの化物どもから守らせないと。
クリスはおもむろにホークの上に跨がる。すでに息絶えているホークの唇にそっと自分の唇を近づけていく。
人工呼吸――、そう人工呼吸をすればこの人はきっと生き返るはずよ。
だんだんと唇が近づいていく。自分の吐息が跳ね返ってほんのりと暖かい。
「だ、だ、ダメぇっ!?」
クリスは大きく叫んでのけ反る。顔は真っ赤になっていた。
「アタシってば、な、な、なにしようとしてんのよ……。
名前も知らない、会ったばかりの男と、キ、キ、キスしようとするなんてっ!?」
自らの口から「キス」という言葉が出したことによって恥ずかしさが倍増したのか、両手で顔を覆ってへたり込んでしまう。
手の隙間から青白くなっていく間抜け面が見えた。
「でも、放っておいたら本当に死んでしまう……。」
唇をきゅっと噛む。口の中を切っているのか、鉄の味がした。
そして、再び顔を近づけていく……。
「こ、こ、これは人工呼吸。人工呼吸よ。
落ち着くの、クリス。大丈夫、アタシなら初めてでもうまくできる。」
クリスは自分にそう言い聞かせて、ホークと唇を合わせる。
確か授業ではこうやったんだけど……
唇からゆっくりと深く息を送り込む。
コイツも口の中切ったのかな……?
初めての人工呼吸は鉄の味がした。
ドンっ!!
背後で大きく建物が崩れる音が響く。大きな影が迫っていた。
ヤバい、殺されるーー
「お願い、助けて!!」
クリスは声のあらん限り叫んだ。
同時にギガンテスの腕が再び振り下ろされる。
「いやぁぁぁぁあああっーー」
クリスの甲高い叫び声が当たり響き渡る。
ズンっ!
鈍い音が響いた。
…………暫時の沈黙が流れる。
「……あれ?死んで……ない?」
クリスは自分が無事であることに気づいた。目の前で大きな木の塊が小刻みに震えている。
クリスは思わずその場にへたり込んだ。
振り返るとそこにはホークが立っていた。根元近くまで折れた剣でギガンテスの巨大な棍棒を受け止めていたのである。ホークの足元は衝撃を受け止めたせいか、大きく陥没している。
ホークは身体全体に黄金色のオーラを纏っている。
「さぁ、反撃開始と行こうか……」
本項はここで終了です。今までで一番長かったですね。。
次回、反撃開始です。




