ミラクル・キス その7
「死んでもアタシを守ってくれるのよね?」
「いいから早く解け!お前、状況が分かってんのか!?」
ホークがクリスを怒鳴りつける。
目の前に、この瓦礫の山を築いた元凶、一つ目の巨人ギガンテスが迫っていた。
「分かってるわよ、だからさっきからやってるじゃない。」
クリスは一生懸命縄を解こうとするが、きつく縛ってあるためかなかなか外れなかった。
こちらに気づいたギガンテスがその太く巨大な腕に握られた棍棒を振り下ろす。棍棒というよりも大木という大きさだ。当然、そのまま受ければのしイカになってしまうだろう。
「外れた!」
クリスの嬉しそうな声が響く。と、同時に彼女はホークに抱きしめられていた。
「ちょ、ちょ、ちょ……!?何するのよっ!?」
ホークはそのまま地面を蹴り、大きく跳躍する。クリスが宙に浮いている感覚を味わうと同時に、轟音が響き渡る。そして、次に衝撃波により舞い上がった二人は吹き飛ばされた。
「怪我はないか……?」
ホークは地面に落下する瞬間は自分の身体を下にしてクリスをかばっていた。
クリスはホークの腕の中で小さく縮こまっている。
「だ、大丈夫よ!」
気丈には振る舞っているが、少女はおびえていた。無理もない、むき出しの殺意が目の前に迫っているのだから。
「嘘つけ。唇切ってるぞ。」
ホークはクリスの頭を軽く撫で、優しげに微笑む。クリスはどくん、と胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「な、な、何よ……、早くどきなさい……よ。」
ホークが上半身を起こし振り返る。地面が深くえぐられ、棍棒の頭半分ほどが埋まっていた。
あれにつぶされていたら……、背筋に寒いものが走る。
「アタシを守ってくれる……のよね……?」
クリスが不安そうにホークへ問いかける。ホークはちらっと振り返るとにっこりと笑って見せた。彼は何も言わなかった。
ホークが立ち上がり、駆け出す。目ざとく瓦礫の中に落ちている剣を見つけ拾い上げる。
剣を目線に水平に構えたままそのまま緑の巨体に向けて疾走した。
だん、と跳躍し地面に突き刺さった棍棒に飛び上がる。と、同時にギガンテスが棍棒を振り上げようとそれを持ち上げ始めた。
棍棒の上を駆け抜け、巨人の腕を駆け上がる。
ひじの辺りに差し掛かった時、ホークは再び跳躍した。
「うぉぉぉぉぉおおおっ!!」
周囲の空気を震わせる程の喊声とともに――
ズンっ――と、鈍い手応えがホークの腕にのしかかる。
飛び上がった勢いに任せ、巨人の大きな目に剣を突き立てていた。
柄の手前まで深く、深く、突き刺さっている。
巨人は目を見開き声にならない叫び声をあげた。
「ざまぁみやが……れ?」
言おうとした瞬間、巨人の目が閉じる。同時に剣は鋼鉄よりも硬い瞼により切断されてしまった。
「な!?お、落ちる……。」
今度は自分が落ちる番だ。だが、下に受け止める者はいない。まずい!とホークが宙を泳ごうとした――その時
バンっ!
ホークはギガンテスの巨大な腕にはたき飛ばされた。
地面に仰向けに叩き付けられる。地面に落ちた瞬間、猛烈な衝撃に体が再度浮き上がった。
「今日は……地面に縁のある日だな――」
身体の感覚が失われていくのが分かる。
もう、地面の冷たさを頬に感じなくなっていた。
視界がゆがみ、闇に溶けていく。
何事か喚きながら少女が駆け寄ってくるのが見える。
薄れゆく意識の中、涙で顔をぐしゃにぐしゃにした少女が自分を覗き込み、何事か叫んでいた。
「……バカだな、さっさと逃げればいいのに――。」
消え入る声でつぶやくと、ホークは息絶えた。




