ミラクル・キス その2
まったく、話にならない!
クリスは再び自分の部屋に閉じ込められていた。
「なんでアタシがこんな目に合わなきゃいけないのよ!?」
部屋から逃げ出そうと、シーツを引き裂いてロープを作ったまではよかった。
だが、そのロープが切れ、落下したのである。
信じられない!
男にお尻を触られた――しかも、頬ずりされたのよ!?
当の本人が聞いたら激怒するようなことをクリスは本気で考えていた。
「普通、女の子が落ちてきたら抱きとめるでしょ!」
そういって手元にあった枕を床に叩きつける。
ホークの身柄を僧兵たちに引き渡した後、案の定クリスは元の部屋に連れ戻されてしまった。
あまり無理はなさいませんように、とガブリエルが微笑んで固く扉を閉ざしたのである。
窓辺にあった大理石のテーブルも撤去され、シーツは毛織物の毛布に変えられている。同じことはするな、ということらしい。
窓辺に立って下を見ると、恐ろしく高いところから飛び降りたものだと、自分の行動力に戦慄した。
「よくこんなところから飛び降りて助かったものね……。少しはクッションに感謝した方が良かったのかしら?」
ぽつりと呟いて、反対に空を見上げると、空に羽ばたくものが見える。
「鳥……にしては大きいわね。ひぃ、ふぅ…みぃ――」
全部で4羽の大きな鳥の様なものが見えた。
それらは見る間に下に降りてくる。何かに引っ張られて落ちてくるようにも見えた。
「こっちに……来る?」
そのうちにカン、カン、カンと鋭く金属製のバケツを叩くような音が響く。音源は一つ、また一つ、とだんだんに増えていくように感じられる。
びぃぃーん、と空気を切る音がそこかしこから聞こえる。鳥に向けてあちらこちらの尖塔や城壁から矢が射られているようだった。黒く細い筋が空に向けて幾筋も吸い込まれていくのが見える。
急激に高度を下げた4つの鳥はアニメや絵本に出てくる腹の大きな龍にそっくりだった。4頭の龍が何か大きな塊をぶら下げ、こちらに向かって急降下してくる。
ドカッ―――、ガラガラ――――
ぶら下げた巨大な塊が向かいの尖塔を直撃し、屋根を破壊した。その衝撃で龍と接続していたロープが外れこちらに転がってくる。
な、なにが起こっているの!?
目の前の出来事に窓から後ずさったその時だった。
窓ごと壁が吹き飛び、衝撃でクリスは部屋の端まで吹き飛ばされる。
「……何が――」
よろけながら見上げると、先ほどまで壁であったところに龍が首を突っ込んで、クリスを睨んでいた。外から見ると、ちょうど啄木鳥が気の中の獲物をついばむように塔にへばりつき、首を穴に突っ込んでいるかのようだ。もっとも、龍は見た目殆どトカゲなので、壁にへばりつくトカゲといった方が適切かもしれない。
龍の首を伝って10人程の人影が部屋に乗り込んでくる。
人を降ろすと龍はそのまま飛び去って行った。そして、龍が飛び去った後、大きく穴の空いた壁に一つの人影が見える。濛々と舞う、土埃が太陽の光に反射して、文字通り影を作っているのである。その人影には翼がついていた。
それ、は悠然と2、3度翼をはためかせると、床に着地する。そして、ゆっくりとクリスに近づきながら微笑みかけてきた。
「――――見ぃ~つけたっ!」
影の声は無邪気な少年の様であった。




