空襲 その4
目の前にどす黒い血だまりができていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ホークを見張りの僧兵たちが目の前の惨劇に恐慌を来たす。腰に下げていた鞘からから剣を抜き放つと肉塊を掴む腕に切りかかった。
「よせっ――!」
ホークが叫ぶのと、僧兵たちが視界から消えるのはほぼ同時であった。
切りかかられた方向に向かって、巨大な腕はその質量の猛威を振るう。
部屋の壁を突き破り、廊下を突き破り、外壁を突き破った。
「あらら――随分と見通しの良いことで……」
ホークが呆れ気味に目の前で薙ぎ払われた壁を見てつぶやいた。
窓から突っ込まれた腕がそのまま扇状に建物をそぎ取っていったのである。
「敵襲――っ!敵襲――っ!!」
突然の出来事に教会中が沸き立っていた。
教会の鐘がけたたましく連打される。戦いの合図であった。
ホークは見通しの良くなった壁の向こうに空を埋める黒い物体の正体を見た。
龍……に乗ってきたのか――!?
襲われたのは教会だけではないようだった。
空を自由に飛び回る龍の背に、幾人かの武装した魔人が乗っているのが見える。
龍が地表近くまで降下するとその背から魔人達が飛び降り、その翼を広げる。
「降下猟兵……か。」
ホークは目の前で聖都が燃える様を見た。
――降下猟兵。龍を使って敵地に乗り込み、殺戮を欲しい儘にする。
魔族には翼を持つ魔人がいるが、その飛行距離は長くない。このため、長距離を飛べる龍で敵地まで乗り込み、降下して戦うのである。
龍は地上から発見しづらい高空を飛行することが可能であり、急降下して兵を投下する。
魔族が奇襲作戦としてよく使う手だ。
――ぐぉぉぉん
崩れた壁の向こうから、中庭で力尽きた龍の姿が見えた。
その体には無数の矢と手槍が撃ち込まれている。
龍、といっても翼のついた大きなトカゲのようなものであり、それ自体にあまり戦闘力はない。
降下猟兵を運ぶための龍となると鈍重なため、降下の際に撃ち落されることも多い。
――ぎょろり
再び、窓の外から白いものが見えた。壁が派手に取り払われたため、それがなんであるかはっきり問わかった。
”目”である。巨大な一つ目が窓から覗いていた。
ずんぐり巨大で筋肉隆々な上半身に、不釣り合いに小さな脚。その体は薄緑である。
「ギガンテスかよ……。よくこんな奴運んだな……。」
中庭で息絶えている龍が気の毒になった。
恐らくは何頭かの龍で中吊りにして運んだのであろう。聖都の中心近くに来る間に下から無数の矢を受けたと想像された。矢はすべて龍の腹に刺さっていたのだ。
一方のギカンテスも中吊りにされていた以上、同じ目に合うはずだが、こちらは無傷である。
ギガンテスの体表は分厚く、固く、鎧をまとっている様なものだ。
言わば空から戦車が降ってきた状態である。
「……」
「……」
巨大な白目の中心にある点と目があった。瞳と瞳で見つめあってしまった。
ヤバい……。縛られて動けないぞ……
ホークが本気で死を覚悟しかけたその時であった――
ガラガラと足元が崩れ、ホークは瓦礫の中に埋もれていった――




