その名はクリス! その3
「姫……、何をなされているのですか?」
ガブリエルは悲しそうな表情でこちら近づいてきた。
「そこで止まりなさい!」
クリスが強い口調で命じると、ガブリエルは素直に従った。
ここ数日でクリスはガブリエルの扱い方を心得ていた。
質問には答えないが絶対に服従する。
ガブリエルはクリスには絶地に逆らわない。勝気なクリスが時々罵っても、困った様な笑顔を返すだけであった。
今も現にその歩みを止めて同じ表情をしている。
「見てわからない?逃げるの。
あなたはそこで見ていなさい。」
「かしこまりました。しかし、姫、ここは10階でございますよ?」
ガブリエルが悲しそうな声で呼びかけている。危ないから止めてくれ、と言うことらしい。
「これが見てわからないの?」
そう言ってシーツで作った即席のロープの端をぶんぶんと振り回して見せた。
「これで下に降りるの。だから怪我なんてしないわ。」
「姫……、失礼ですがその様な間に合わせのロープで姫の身体を支えられるとは……」
「何よ、アンタ、私が重いって言うこと!?」
ギロリとガブリエルを睨みつける。
「そ、そう言う意味ではございません……」
「なら、そこで見てなさい!」
言うが早いか、クリスは窓から身を踊らせた。
しっかりとロープに捕まり、壁を蹴りながら下へ降りて行く。
数メートル降りて上を見上げるとガブリエルが心配そうに覗き込んでいた。
ざまぁみろ、アタシは鳥かごの鳥じゃないんだ。
もう、自由なんだ!
そう心を弾ませながらロープを伝って行く。
もう少しで地面に……つかなかった。
ロープは地面にあと5mは足りない。
しまった……ちゃんと地面に着くか確認すべきだったわ……。
後悔しても遅い。この状況をなんとかしなければ……。
飛び降りる?それともロープを伝って上に戻る?
下を向いて地面を確認する。
すると、真下に数人の男とそれを取り囲む兵士たちが見えた。
うん、戻ろう!
確信した彼女はそれまでとは逆にロープを支えに登ろうと力をかける。
だが、その瞬間、目の前の結び目が解けた。
「う、嘘っ!?」
その先を掴もうと手を伸ばす。辛くも切れ端を掴む。
しかし、片手で宙吊り状態となってしまった。
彼女は上に向かって叫ぶ。
「ちょっと!なにボーッと見てるのよ!引き上げなさい!」
声の先のガブリエルは主の命令に従い、ロープを引き上げる。
徐々に彼女の身体が持ち上げられて行く……だが、掴んだすぐ上が小さな音を立てながらゆっくりと裂け始めたのである。
「ダメ、ダメ、ダメっ!もうちょっと頑張って!お願い!!」
彼女は泣きそうな声でシーツに呼びかける。
だが、それは虚しく響いただけだった。かわりに乾いた絹を咲く音が響く。
「いやぁぁぁぁーーーーーっ!落ちるーーーー!!」




