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聖都 ヴェストファーレン その1

(1)

 聖都はその日、祝福に満ちていた。道々は花で飾られ、祝いの言葉が飛びかっていた。

「何と言っても今日は復活祭だ!」

 居酒屋の親父がそう笑うと、道ゆく旅人達に酒を振る舞っている。


 魔族の襲撃を逆に蹴散らし、ホーク一行は聖都入りを果たしていた。


 聖都、ヴェストファーレン。聖王国の首府であり、神族である人間が魔族に対抗するために二千年以上の時を費やして築いた人間世界最大の城塞都市である。


 聖都の中心部には忽然と切り立った二つの断崖が現れる。その頂に威風堂々たる双子の城が築かれており、両城は崖をつなぐ空中回廊で接続されていた。両城を隔てる崖下には大きな運河が流れており、それは聖都を南北に縦断している。


その城を取り囲む様に市街地を形成し、南北に運河が走っていることから、運河を挟んで北街区、南街区と分けられる。更には人口ごとに細かく北1区、南5区というような番号制のブロックが20程あり、およそ400万人の人口を抱える巨大都市でもある。

その広大な街区をぐるりと城壁が囲み、城門は僅かに東西南北に一つづつだ。


「聖王万歳!聖都に祝福を!」

辻々で声が上がり、聖都の中はいつにもまして人で溢れかえっていた。


復活祭とは三百年前、魔人に勝利して現在の聖王国の領土を確立した数代前の聖王が降臨した日とされている。

聖都は賑わう一方で、他国や魔人達の襲撃を警戒してなのか、城壁内外で多くの兵士が見られた。


ホークは目立つのを恐れ、七海とシグナスだけを連れて聖都に入城した。残りの兵は近郊の平原で野営させている。

入城の名目も魔人との戦闘で発生した負傷兵のための医薬品調達としている。

ホークは聖都の守備隊とは顔なじみのようですんなり入城できた。


「ビールか、いいねぇ!わかってるじゃねぇか!!」

そう言って親父の肩をバンバンと叩き、その手からジョッキを奪い、喉を潤す。

「ぷふぁーーっ、いいねぇ、やっぱり文明ってやつは!!」

「おっ、兄ちゃんいい呑みっぷりじゃねぇか!」

ホークが一気にジョッキを干すと、わらわらと人が集まってくる。


「当たり前だ、見ろよこの袖!旅団の士官様じゃねぇか。」

「なんだ、兄ちゃん、傭兵か?そりゃ、いい呑みっぷりな訳だ。」

ホーク達風の旅団は王国兵よりも最前線に配置され、魔人から聖都を守っている。そういう認識が聖都の民衆には根強く、旅団の制服を着て歩けば辻々で呼び止められる。


「そんな苦い汁で文明を感じるなんて、やっぱり未開人……。」

豪快に笑いながら酒をあおるホークにシグナスは冷ややかだった。

「昼間からお酒を飲んで騒ぐのは良くないと思います!」

傍の七海も目の前の少年の飲酒に苦言を呈する。

「お前らなぁ……、堅いこと言うんじゃねぇよ。チェスカじゃ、あるまいし……」

そう言ってホークは陽気な感じで二人の肩を抱いて引き寄せた。独特の甘い酵母の香りが七海の鼻腔を刺激する。


「……シグナスは気づいてるな?」

ホークの問いかけは静かに、そして鋭かった。

七海ははっと、ホークの眼を見た。その眼は先程までのにこやかな表情とは違い、殺気を帯びている。

「後ろから三人。左の路地に一人、こっちを見ている……」

シグナスは相変わらず淡々としているが、周囲の状況に気づいているようであった。

「上出来だ。前にも二人いる。

お前ら合図したら右の路地に走れ。」

七海は何のことか分からず怯えた視線をホークに向けた。ホークはにっこりと七海に微笑みかけた。初めて出会った夜のように。

「シグナス、北街区の修道院を目指せ。教会には近づくなよ?」

シグナスはコクリ、と短く頷く。


「お前ら、真面目すぎるんだよーっ!」

ホークが突然大声をあげて七海の背中を叩いた。勢いで七海は二、三歩前に出る。

「わわっ‥…!?」

「走れっ!」

ホークが鋭く命じると、シグナスは七海の手を握って右の路地へと駆け出した。

久しぶりの投稿となりました。

細々と続けていきます。

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