夜襲 その5
「結界獣を正面に展開させろ!」
魔族軍中央、本陣の中は慌ただしく動いていた。
前面の森からは雨よりも激しく魔法砲撃が降り注ぐ。
最初のうちこそ大きな被害を出した魔族軍であったが、それは徐々に収まっている。
結界獣と呼ばれる、紫色の巨大な水晶を背負った亀が本陣前面に展開し始めると砲撃は無効化された。
鈍い咆哮とともに結界獣の前面には六芒星を描く結界が張られ、砲撃を跳ね返す。
「魔法は元々我らがものだ……。この様な子供だましの戦術など……」
まだこれからだ、と内心巻き返しへの自身を宿す魔族の司令官の目前で結界獣が血飛沫をあげて倒れた。
「何だっ!?」
思う間もなく、一つの影が飛び込んでくる。
ガンッ!
咄嗟に剣を抜き放つと、飛びかかる影を払いのけた。
「将軍をお守りしろっ!」
数名の衛兵が影に飛びかかる。だが、次の瞬間には物言わぬ骸となっていた。
影は音もなく、魔人の命を奪う。
「……鮮やかだな。人間にもこれ程の者がいようとは……」
魔族の指揮官はゆっくりの馬首を影の方向へ向ける。
影が手にする刀はぬらぬらとしたどす黒い血で汚れていた。激しい雨に荒い流され、時折鈍い銀色の光がゆらゆらと見える。
指揮官の馬は巨大であった。大隊の騎兵が乗る馬と比べると二回りは大きい。
その馬は分厚い鎧に覆われている。
騎乗の指揮官も巨大であり、同様に分厚い鎧で身を固めている。
手にする剣は刃の部分だけでも人間の背丈はあろうかという長大さだ。
「貴様ら、手を出すな。私の獲物だ。」
そういって馬の腹を蹴ると猛烈な勢いで影に突進する。
だが、繰り出す剣の一撃を影はひらりと躱す。
そして、指揮官には目もくれず、結界獣へと襲い掛かる。
また一匹、悲しげな叫び声をあげて結界獣が斃された。
もう一匹…と、返す刀で狙いを定めた所へ横殴りに指揮官の剣が迫る。
鈍い金属音とともに影はぬかるんだ地面へと叩きつけられた。
「チッ……、さすがにそう簡単には始末させてくれないか……」
ぐにゃりと折れ曲がった刀が衝撃の強さを物語っている。
ホークは刀を捨てると愛用の長剣に持ち変え、眼前の敵と向かい合った。
「人間にしてはやるようだな。だが、魔人を舐めないでもらおうか……」
鋭い一撃がホークを襲う。馬上の高い位置から振り下ろされる剣戟をホークは相手の力を利用して横に流す。
飛び上がり、兜と鎧の間……、つまり首筋を狙って一撃を繰り出した。
だが、魔人はそれを篭手で軽々と受け、同時に空中で無防備なホークの腹へ強烈な拳の一撃を見舞った。
「……かはっ。」
ホークはもんどりうって地面に叩きつけられた。
「所詮は人間。か弱いものだ。」
朦朧とする意識の中、ゆっくりと魔人が近づいて来るのが分かった。




