地獄の沙汰も金次第
「それにしても、お前、不思議な服を着ているな…」
「え?コレ、変ですか?」
七海は制服姿だった。白いブラウスに紺のリボン。金の縁取りのある黒いブレザーとミニスカート。そして、膝丈の黒タイツをはいている。
「その上着……、お前軍人か?」
「ち、違いますよっ!」
「だよな、こんなちんちくりんが軍に入れるはずねぇ…」
そう言って七海の頭をぽんぽんと軽くたたく。
ホークは180cm近くあり堂々とした体躯であるが、七海は140cm程しかない。
「ちんちくりんって……!?
そんなことより、あの人を……ステラさんを助けてください!!」
七海はそう言って苦戦を強いられているステラのほうを指差す。
目の前のホークからはほとんど緊迫感が感じられない。
「嬢ちゃん、傭兵に物を頼むときは必要なもんがあるだろ?」
七海は一瞬、何を言われているのかよく分からなかったが、すぐにそれが何を意味するのか理解した。
「……お金取るんですか?」
「当たり前よ、こちとら切った張ったで命を掛けてるんだ。
何もなしというわけにはいかねーだろ?」
「さっきは助けてくれたじゃないですか……」
「それは、売込みってやつよ。客が死んじまったら金にならねーだろ?」
最低だ。
そういう目で七海は目の前の傭兵を蔑む目で見た。
同時に、どうしようもない自分に涙が出てくる。
ついに彼女は泣き出してしまった。
「あー……、いやー……、その、そうやって泣かれるとだなぁ……」
「ひどい、一人で女の子が戦ってるのを見殺しにするなんて!」
目にいっぱい涙を蓄え、非難の声を浴びせかける。
「わかった、わかった、助けるよ。だから、泣くな、な?」
「ほんと……本当……ですか……?」
泣きじゃくる七海をホークは何とかなだめようと必死になった。
「男に二言はねぇよ。」
そう言うと腰に下げたナイフに手を伸ばす。
ナイフは柄の部分に丸く穴が開いていて、指を引っ掛けて使うタイプだ。
「ねーちゃん、加勢しようか?」
「必要ない!こんな雑魚どもは私一人で十分だっ!」
大声でステラに呼びかけると、むなしく拒否されるばかりだった。
だが、明らかにステラの形勢は不利に見える。
ガンっ!
「くっ…」
刺客の一人が大きく振り上げた剣を正面で受けると、ステラは足をとられ膝を突く。
刺客はそのままステラを両断しようと剣をじりじりと押し下げてくる。
ヒュッ……ガッ!
風切り音と同時に肉を貫く鈍い音が聞こえる。
刺客は真横から喉をナイフで貫かれ、溢れる血に溺れていた。
「人の好意はおとなしく受けとくもんだぜ?」
いつの間に距離をつめたのか、ステラの目の前にホークがいた。
すでに横から切りかかってきた刺客を袈裟懸けに薙ぎ払っている。
ホークの持つ剣はステラのそれと比べるとずいぶん長かった。1メートルほどもある刀身に細身の刃。剣先は幅広く矢じりのような形状となった両手持ちの剣だ。
「うぉぉぉぉおおおっ!」
飛び掛ってきた刺客に対し、剣をフルスイングする。刺客は胴を両断され、二つの肉塊が地面に転がった。
ホークの広がった剣先に重心があり、遠心力で絶大な威力を発揮した。その重い剣を軽々と使いこなす彼は一流の剣士であることは疑いようもない。
ホークは瞬く間に3人、4人と刺客を始末すると、事も無げにステラに手を伸ばした。
「御代はアンタからいただくことにするぜ」
「……調子に乗るなっ!」
気安いホークの問いかけにステラはそのわき腹めがけて剣を繰り出した。
2013.07.09 少々改稿しました