夜襲 その2
騎兵の威力はその機動力と兵士が精強であるという以上に、馬という巨大な獣が猛スピードで突っ込んでくる所にある。馬は鋼の鎧を着せられ、防御力という以上に巨大な鉄塊となって絶大な破壊力を持たされている。
言うなれば、猛スピードの自動車が突っ込んでくるのと同じだ。
大隊の騎兵には槍に臆するような馬は一頭もいなかった。盆地で不用意に密集した魔族軍をアウラデ率いる騎兵中隊が縦に深く斬り込んでいく。楔を打ち込むように敵陣を二つに割ろうとしていた。
「いい調子や! お前達、風の旅団の恐ろしさ、たっぷり教えたるんやで!!」
「了解、姉御っ!」
先頭を重装騎兵が、その後ろから混乱した敵を槍騎兵が確実に仕留めていく。
槍騎兵は重装歩兵と違い、全身を鋼の鎧で固めるのではなく、動きやすい軽鎧を身にまとい、ハルバートと呼ばれる2mほどの鉾槍を装備している。鉾槍とは、尖った槍先と斧のような分厚い刃を持った武器である。馬上から突き、あるいは振り下ろして敵兵を蹴散らす。
騎兵が嵐のように通り抜けると前線には混乱を収拾しようとする指揮官の怒声がそこかしこで聞こえる。
だが、その声はすぐに聞こえなくなる。声を上げれば上げるほど、指揮官であることを敵に示すこととなった。
それは、死神のごとく突然、闇から現れる。
雨で体温を奪わないために黒い雨合羽を被り、フードを被ると彼らは闇に溶け込んだ。
手にする60センチ程の短い刀は先が鋭く、また、それとは不釣り合いに分厚く重い。
刺突と打撃という白兵戦闘に特化した剣であった。
それは、突撃の際に一切声を上げなかった。
ただ、無言で闇の中から現れ、次々と魔人たちを屠っていく。
通常、歩兵の突撃は相手を威嚇する怒声とともに吶喊する。
それは相手を威嚇すると同時に自らを鼓舞する意味があった。
だが、彼らにはその様な士気の鼓舞は不要であった。
指揮官の刀が前方に向け振り下ろされると同時に、逃げ惑う魔人たちに喰らいつく。
彼らは傭兵集団である風の旅団の中でも精鋭中の精鋭であった。
そして、彼らの先頭には常に、紅い瞳の少年の姿がある。
ホークは指揮を執ると同時に、自らが最も優れた兵士だった。
だが、魔族とて何の抵抗もなく殺されるのを待つわけではない。
ホークが3人の魔人相手にいつもより短い刀で相手をしていると、一人の魔人が飛び上がり、ホークに向かって刀を振り下した。
振り向きもせず、ホークは背中に手を伸ばすと小型のボウガンでそれを撃ち落した。
胸に矢を受けた魔人は呻く間もなく絶命する。
緒戦は大隊による一方的な勝利であった。




