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夜襲 その1

「なんでこんな夜まで歩かされるのか……」

 彼は不満をつい口に出していた。それを聞かれてしまったのか、馬上の上司から槍の柄で小突かれる。

「つべこべ言わず、歩くのだ。我々は人間殲滅の尖兵という栄誉を授かったのだぞ!」

 紫色の顔を真っ赤にして怒鳴りつける。


 彼は魔族と人間の国境とされる森を抜け、やや開けた盆地を歩かされている。”愚かな人間に無慈悲な一撃を加える”と作戦目的を聞かされていたが、噂では奪われた魔王を奪還するのだというようなことが、まことしやかに言われていた。

「大体からして、上司の尻拭いだ……」

 彼ら親衛隊の兵卒達は一様にして言っている。数日前、彼らの上司であるゼップが戦死していた。

 そもそも、魔王の親衛隊長が魔王に殺されたというのは一体どういうことだろうか……

 噂ではゼップは魔王に一撃で屠られたという。

 将を失った軍はおめおめと帰還できるかとばかりに人間の領域に進撃していたのである。


 ずぶ濡れになりながら、彼らは行軍を続けた。

「敵の攻撃を警戒せよ」

 軍の戦闘に位置する彼の部隊は騎兵除けの長槍を持たされていた。

 パイクと呼ばれるそれは4mもの長さがある。密集隊形でハリネズミのように前方に突き出すことによって騎兵突撃を防ぐ武器だ。馬はその野生の習性から、目の前に迫る突起にその歩みを止めてしまう。

 戦闘には威力を発揮するその武器も、土砂降りの雨の中担がされるのは拷問としか言いようがなかった。

 

 この雨の中、しかも夜中である。こんな大軍に仕掛けてくる奴はいない。

 不満たらたらに歩を進めていると、地響きが足元から湧き立って来た。

 雨がさらに強くなったのか、そう思った刹那、前方から叫び声が聞こえた。


「敵襲! 敵しゅ――」

 叫び声は途中で鈍い音とともにかき消された。轟音は無機質に近づいてくる。

 

「槍を構えろ!」

 馬上にある部隊長の怒鳴り声が聞こえる。彼は同僚と肩を寄せ合って槍を前に突き出す。真っ暗な闇の先から馬蹄が力強く地面をける音だけが近づきつつある。息が苦しい。精一杯地面に足を踏ん張り、槍を突き出す。当たりには一定の間隔で針山が出現していた。

 だが、彼らの努力は虚しく蹴散らされた。


 突如、闇から銀色の塊が飛び出し、同時に彼は宙を舞っていた。

 鋼をまとった巨大な獣に撥ねられたのである。

 彼が最期に目にした光景は深紅の鎧に身を包んだ重装騎兵が仲間を次々と撥ね飛ばし、踏み潰していく恐ろしい光景だった。

 


しばらく戦闘描写が続きますので、苦手な方はご注意ください

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