乗るか、反るか
前方ニ魔族ノ集団アリ。
雨の勢いが強くなり始めたころ、斥候に出していた騎兵が報告してきた。
どうやら、こちらにゆっくりと向かってきているらしい。
およそ1個連隊規模。約3000だという。こちらの15倍の規模だった。
このままだと明日の朝には遭遇することとなる。
「本当に来るとは……」
ホークは七海が重要な存在であることを改めて確信することとなった。こちらは大隊で守り、向こうは連隊で攻めてくる。
今から旅団に援軍を求めても到底間に合わないだろう。
いっそ引き返すか……、状況的にはそれが正しいかもしれない。雨は激しく、それに紛れて撤退すれば無事野営地に戻れるだろう。
「ここは撤退するのが無難でしょう。」
切れ長の目の男が腕を組みながら言った。ホークと同じく胸甲のみの軽装である彼は歩兵中隊の中隊長である。
「せやせや、ティットの言う通りや。ここは逃げるが勝ちやで」
「ホークが殿をやればいい……。そして、死ねばいいのに……」
大きめの幕舎には中心にテーブルが置かれ、周辺の地図が広げられていた。こちらの位置と敵の位置がチェスの駒で表されていた。
その卓を囲むのは一癖も二癖もある大隊幹部達である。
「果たしてそうでしょうかねぇ……」
大勢が撤退に決しようとする中、ひとりその疑問を呈する男がいた。紫色のマントに身を包み、自分のあごを掴みながら首をひねる。
「我々が撤退しやすいということは、逆に攻める機会でもあるのですよ?」
それは大胆な発言であった。200の兵で3000を攻める。兵力差は15倍である。
「しょ、正気とは思われへんな……」
「敵は巧みに旅団の防衛線を迂回しつつ、浸透戦術を成功させています。おそらくは魔族の中でも精鋭の部類に入るでしょう。奇襲をかけるにはリスクが高すぎます。」
騎兵中隊、歩兵中隊ともに反対の立場をとる。
浸透戦術とは敵に気づかれることなく敵陣内部深くに進撃することを指す。旅団の索敵網をかいくぐって聖都近くまで魔族が侵入してくることはこれまでにないことであった。
「師匠、とうとう気が触れましたか……」
マイナが師匠と呼ぶその男は大隊付の参謀であった。マントには襟章がついており、その階級は大尉である。戦闘時にはまだ経験の浅いマイナに代わり小隊の指揮も行う彼の名はロシェといった。
「あなた方の様な百戦錬磨の兵士たちですら、そう思うでしょう? それは向こうも同じですよ。我々が攻撃してくるとは思っていないはずです。」
そういうと、自分たちを表す駒を拾い上げ、魔族の駒にぶつけて見せた。
「――さて、どうします? 大隊長どの……」
流し目で視線を送る。ホークは地図をじっと見つめていた。
明日も19時投稿予定。
--
大隊メンバー整理
飛鷲大隊
大隊長 ホーク少佐(18歳)
参謀 ロシェ大尉(??歳)
騎兵中隊 中隊長 アラウデ大尉(25歳)
歩兵中隊 中隊長 ティット大尉(28歳)
魔導小隊 小隊長 マイナ少尉(17歳)
※魔導小隊は歩兵中隊所属




