雨中の行軍 その2
「お前らなぁ……。ったくどいつもこいつも上官を上官と思わん態度を取りやがって……」
「そらそうやで。日頃の勤務態度っちゅーんがなってへんからな。」
そう言って、特徴的な語り口調の女性がホークの右に馬首を並べた。髪の色は鮮やかな碧色で赤い甲冑を着込んでいる。ホークが身に着けている胸甲と比べると重装備であることが一見して分かった。馬自体も重装甲の鎧を着ており、右側には丸太のような太さで先が尖った騎兵槍が取り付けられていた。
彼女の名はアラウデ大尉、大隊の主力である騎兵中隊の中隊長であり、ホークの元上司でもある。
「ですねぇ。早く死ねばいいのに……。そしてマイナの昇進に貢献してください。」
とんでもない暴言を吐きながらマイナ少尉が右側に馬首を並べる。彼女は貴重な魔導師のみで構成される魔導小隊の小隊長だ。
青い髪に大きな青い目をしている。その瞳は大きく、常に瞳孔が開いているような不気味な印象を与える。魔導師らしく軽装で、緑色のマントを羽織っているだけだった。
「アラウデ……アンタはそんなんだから婚期を逃して、ずっと傭兵稼業なんてやる羽目になるんだぜ?」
ホークは面白くなさそうに傍らの部下に言い放つ。
「ちょっ!? ナニ言うてんの!? ウチはまだ25やで? 婚期逃したりしてへんで!?」
「24と25では新鮮さが違いますよねぇ。早く寿除隊してください。なんなら戦死でも構いません。そして、マイナの昇進に……以下略です。」
「ちょっ、アンタまでナニ言うてんの!? アンタ、ウチの部下やないの!?」
「否。マイナは歩兵中隊に所属しています。指揮系統が違います。」
ホーク越しに女性2人が口論を始めた。ホークは深いため息をつく。この小娘という怒声が右から、17歳という若さに嫉妬するのは良くありませんね、とそれを煽る声が左から飛び交う。
ああ、そうだ……大げさだ、という以外に気が進まない理由がもうひとつあった。
こいつらと一緒にいるのは疲れる……
ホークがうなだれると心なしか馬も元気がないように見えた。
ーーあのオヤジ、単に厄介払いがしたかっただけじゃないのか……
見上げると頬を濡らすものがあった。徐々にそれが範囲を広げていく。
「雨か……」
ポツポツと雨が降り出した。しばらくすれば本降りになるだろう。そろそろ日も暮れる。野営を設営しなきゃな……。
薄暗い空と同様、彼の気も暫くは晴れる感じがしなかった。
本日はここまで。




