魔人
ステラが剣を構えると森の端から影が塊になって襲ってきた。
ガキン
鈍い金属音が響く。
ステラの持つ剣と刺客の剣がぶつかり合った。
刹那、血しぶきを上げて黒い塊が地面に落ちる。
「……っ!?」
目の前で繰り広げられる惨劇に少女は言葉を失う。
「マスター、お下がりください。ここは私が引き受けます!」
ステラはそう言って次に襲い掛かる影を薙ぐ。
だが、影はどんどんと増えていくようであった。
幾重にも取り囲まれ、素人目にもじりじりと押されていることが分かる。
「い、いやっ…!」
不意に少女の腕をつかむものがあった。
「マスター!?くっ、数が多すぎる…」
少女はその腕を掴む影の顔を見た。
それは紫色の顔をした人間であった。
「だ、誰か助けて……っ!」
彼女が叫んだ瞬間、目の前の顔に革靴がめり込むのが見えた。
ぐぅぉ、と声にならない叫びを上げて影が昏倒する。
少女は緊張が解けたのか、その場に座り込んでいた。
「オイオイ、なんでこんな所に魔人どもがいやがるんだ?」
見上げると、そこには長身の男が立っていた。
「おい、お前、怪我はないか?」
「は、はい」
「あそこで戦ってるねーちゃんはお前の仲間か?」
「……はい、たぶん」
「多分、ねぇ…。お前、名前は?」
そう言って男は手を差し出す。
少女はその手をとり、立ち上がった。
「あの……、私は……私は、星野七海って言います。」
「七海か。変わった名前だな……。俺はホークってんだ。傭兵をやってる。
ところで、お前、何でこんな森の中で魔人に襲われてるんだ?」
「魔人……? 魔人って何ですか?」
「魔人は魔族の兵士のことさ。人類の敵、憎むべき悪魔たちだ。
俺ら傭兵は魔人どもから領土を守るために戦ったりもする。」
この世界は神と人の神族、魔神と魔人の魔族に分かれている。
神はいくつかの階級に分かれるが、天使として人の前にも現れる。
魔族も同じように魔神と魔人に分かれている。
人間は天使に率いられて何千年という間、魔神率いる魔人たちと戦ってきた。
ホークが得意顔で解説していると、突如、先ほど蹴り飛ばされた魔人が背後から切りかかってきた。
「人間風情が死ねぇっ!!」
「そうそう、魔人は肌が紫色で額の上に角が生えてるんだ」
ザンッ
振り向きざまホークの剣が弧を描く。ボトっと鈍い音を立てて丸いものが地面に落ちた。
「そうそう、こんな感じだ」
ホークはそう言うと切り落としたものを拾い上げて満面の笑みを浮かべる。
七海は意識が飛びそうになるのを感じた。