報告
「報告します。」
チェスカは踵をカッと音がするほど合わせて姿勢を正し、敬礼した。目の前の人物は初老過ぎ男性であごひげを蓄え、大きな木製の机に向かっている。
「そう畏まらなくてもいいじゃないか。人払いはしてある。今は私とお前だけなのだよ?」
初老の男性はチェスカの上官であるが、特に親密な間柄であることを匂わせる。
「そういうわけにはいきません。私は貴方の部下ですから。スパロー准将。」
チェスカは相対している将官に対してわざとらしく応じた。フレデリック・スパロー准将、彼女の父親である。
「そう冷たくされるとパパ悲しいな~……」
「真面目にやってください。傭兵とはいえ、我々は聖王国の正規軍に組み込まれているのです。あなたがそんな風だから兵全体の風紀が――」
「わかった、わかった。小言は後で聞くから。先に報告を頼む」
言葉の端々まで軍人風のチェスカに対し、父親は将官とは思えない程威厳がない。親子関係を持ち込むなと言っている割には家庭の雰囲気が垣間見られる。
「ホークの報告に基づき、接敵した魔族の特徴から相手は魔神ゼップと見て間違いありません。」
ほう、とフレデリックが身を乗り出す。
「あいつ、魔神とやり合ったというのか……なかなかやるようになったじゃないか!」
「……しかし、彼の証言では全く歯が立たなかったと。」
「では、なぜゼップは退いた? 例の金髪の姉ちゃんがゼップを倒したってのか?」
傭兵らしいといえば傭兵らしいが、その汚い言葉遣いにチェスカは眉をしかめる。
「コードネーム、星が魔神を倒せるほどの実力の持ち主であるかは不明です。少なくとも、私はあの魔人にそれ程の力があるとは思えません。」
二人は少なくともステラが何者であるか、知っているようだった。確かにそれは同感だ、とフレデリックはイスに深く体を沈み込ませる。
「それで、娘の方はどうだ? 変わった名前だったよな?」
「名は七海です。彼女が荷物であるか、確証はありません。ですが……別の世界から転生してきたことだけは明らかです。」
ふむ、と頷くなり、フレデリックは腑に落ちないといった表情で腕を組んで考え込む。
「魔神が絡んでるのが気になるな。荷物を殺しに来たか? 仮にそうだとして、発見されるのが早すぎやしないか?」
矢継ぎ早にチェスカへ疑問を投げかける。彼女は父の問いかけに当惑しているのか、それとも思うところがあってか、目を合わせようとはしなかった。
「チェスカ、お前の意見を聞かせてくれ。あの娘は荷物なのか?
それとも――魔王なのか?」
ゆっくりと、だが、はっきりとフレデリックは”魔王”という言葉を口にした。彼が七海の尋問を娘に託した理由がそこにあった。
魔王は200年の周期で転生を繰り返す。彼女が荷物であるのか、それとも魔王であるのか、それが人類にとって最大の問題だ。
それを敢えて言葉には出さず、フレデリックは真っ直ぐに愛娘を見据えることで伝えた。
「私は……」
チェスカは父親から少し目をそらすように口を開いた。その瞳は助けを求めるような悲しい色をしていた。
「――魔王でないことを望んでいます……」




