風の旅団 その1
「気分はどうかしら?少しお話がしたいのだけど……」
七海の元を訪れたのはスラリと背の高い、いかにも聡明な感じのする女性だった。
彼女は七海の制服とよく似たブレザーを着ていた。色こそ深緑色であるが、金色に縁取られているところなどはよく似ている。丈の短いスカートに膝丈のブーツを履いていた。
「はじめまして。私はチェスカ・スパロー大尉。七海さん、でよろしかったかしら?」
にっこりと微笑み、敵意がないことを示しながら、彼女は握手を求めてきた。
き、綺麗なお姉さんが出てきた……
女の七海でもドッキリするくらいチェスカは美しかった。
短く切りそろえられた髪は栗毛で、制服と同じ深緑のベレー帽を被っている。ベレー帽には部隊の紋章なのか、肩と同じワッペンが付いている。それには風に乗って飛ぶツバメに絵柄が描いてあった。
「は、はい。星野七海です。」
慌てて立ち上がってチェスカと握手を交わす。彼女はそのままでいいわよ、と七海をベッドに座らせると脇にあった木製の椅子を引き寄せる。七海の斜め右に座ると革製のファイルを広げ、はさんであった紙をめくり始める。
「いくつか聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
優しげに微笑まれ、七海は恥ずかしくてうつむいてしまう。
「は、はい。」
「あなたのような可愛らしい女の子相手に尋問はしたくないわ。だから、単刀直入に聞くのだけど、あなたは何者なのかしら?」
私は……魔王です……
なんて、言えるわけがない。
大体、あのフェレットが言っていたことが本当だなんて、まだ信じられない……
「……分からないんです。気付いたら森にいて、怖い人たちに追いかけられていました。」
そうだ、嘘は言っていない。わかっている、本当のことだけ言えばいいんだ。
「怖い人、というのは魔人たちね。」
「その魔人……というのから、女の人と、男の人が助けてくれたんです。女の人はステラさん、男の人はホークさんと言っていました。二人共すごく強くて……でも、すごく強い化け物が現れて……」
「化け物というのは魔神ゼップのことかしら?」
「はい、確かそんな風に名乗っていました。その……魔神?にステラさんも、ホークさんもかなわなくて……それから先はよく覚えていません。気がついたら、ここで寝ていました……」
七海はチェスカに問われるまま、自分が覚えていることを語った。
「なるほど……あのバカの証言と一致してるわね……」
チェスカは考え込むようにそれまでメモを取っていたファイルに目を落とす。その美しい顔には似合わず、眉間が深く沈み込む。
しばらく考え込んだあと、チェスカは顔を上げた。
「怖い思いをしたわね……。でも、もう大丈夫よ。」
チェスカが愛おしむように優しげな瞳で見つめてきた。七海は抑えていた不安が溢れ、泣き出した。
駄々っ子をあやす母のようにチェスカはそれを抱きとめ、頭を撫でてやった。
「あなたの身は私達が責任をもって保護するから、安心して……」
よかった、もう一人じゃない。
そんな思いと同時に彼女にはひとつの疑問が湧き上がる。
「あの、私達って、どういうことですか?」
「私たちは”風の旅団”。大陸最強の傭兵団よ。」
チェスカは満面の笑みで七海を勇気づけた。
2013.07.09 少々改稿しました




