森
深い、深い森の中を少女が駆け抜ける。
「はぁ、はぁ……」
何かに追われている、でも、それが何であるか、彼女には分からなかった。
「どうしてこんなことに……」
息を切らしながら彼女は状況を整理しようとした。
だが、なぜ走っているのか、何に追われているのかも分からない。
今は夜だろうか、それとも森が深く日の光が入らないせいだろうか、あたりは真っ暗で容易に周囲の情報がつかめない。
ただ、分かることは逃げなければならないということだけ。
「わからない……」
そもそも、森の中にいたことはないはずだ。
彼女は走りながらおぼろげな記憶を辿ろうとした。
刹那、足元にあるはずの地面が消えていた。
「う、うそっ!?」
そこは切り立った崖になっていた。
彼女は真っ逆さまに崖下に落ちてく。
「ウソ、ウソ、ウソ!? やだ、こんなところで死にたくないよっ!!」
眼前に谷底が迫ってくる。
谷底には川らしき水の流れが見えるが、到底落ちて助かるような深さがあるとは思えなかった。
強く目を閉じると、最後の一瞬が来ることを強く感じる。
彼女が諦めかけたとき、一陣の風が吹き、彼女の体は空を舞った。
ふわりと体が浮く感じ。
そして、誰かがしっかりと抱きかかえてくれる暖かな体温が伝わった。
恐る恐る目を開けると、そこには金色に輝く長い神をたなびかせ、彼女をしっかりと抱きかかえる女性がいた。
「誰……?天使……なの……?」
どうやって飛んでいるのだろうか。
翼らしきものは生えていない。
二人の周りを金色に輝く光の粒子が包み、ゆっくりと地上へと降りていく。
「あ、あの……」
「……なんですか?」
自分を抱き抱え、ゆっくりと降下する彼女に少女は問いかけた。
「わ、私たち、浮いてますよね??」
少女が尋ねると困ったような彼女は困ったように笑みを浮かべる。
「飛んでいるのですよ。」
「そ、そうなんですね! 飛べるなんてすごいですね!!」
少女は自分が混乱しているのを感じた。その慌てぶりに目の前の天使が笑い出す。
「そんなびっくりなさらなくても、いずれあなたも飛べるようになります。
私よりずっと上手にね」
「そ、そうなんですか?」
少女の問いかけに、彼女はゆっくりと微笑み返した。
そんな会話をしているうちに二人は地上へと降り立った。
川のほとり、ごつごつとした岩が転がっているところを見ると、上流の方だろうか。
「あ、あの、私わけが分からなくて……」
「それはそうでしょう。まだこの世界に着たばかりなのですから……」
「この世界?」
「そう、この世界。あなたは別の世界からいらしたのですよ」
「なに? なに? どーいうことなの!?」
とっくに自分の頭で理解できる範囲を超えてしまっている。
何かに追いかけられて、谷底に落ちた。
そしたら、天使らしきお姉さんにお姫様抱っこで助けられた。
状況を整理しようとすればするほど、少女の頭は混乱するばかりだった。
「それは追々説明します、我が主君。」
目の前の天使が手をとり、膝まづいた。
「……ですが、今は不逞の輩を始末するのが先のようです。」
ゆっくりと彼女から離れ、少女に背を向けた天使の手には剣が握られていた。
彼女の腕の長さ程の真っ直ぐで短い剣は数字の8の字型の鍔を持ち、柄の部分が星のように拡がっていた。その柄は金色に輝き、大きく真横に空を切ると、星明りに照らされて周囲に光の粒を撒き散らす。
「我が名は星のステラ。命の欲しくない者はかかってきなさい!」