片付け(2)
私は鳴瀬さんの片付けを手伝うことにした。
「じゃあ、この本を本棚に並べてくれるかな。」
鳴瀬さんは申し訳なさそうな顔をしながら、私に言った。
『私から引き受けたことですから、そんな顔しなくていいですよ。』
そう言って私は受け取った本を持って部屋の隅にある本棚に向かった。
私は今、自分が持っている本を見て驚いた。
『あれ、この本...』
私の手にあったのは、今話題の料理本だった。
「ん、どうしたの?」
『この本って...、鳴瀬さん、料理するんですか?』
「ああ、うん、一応ね。」
鳴瀬さんは少し困ったような顔でそう答えた。
「でも、あまり上手じゃないんだ。海月ちゃんは得意?」
『はい、私ずっと晩御飯作ってましたから。』
「へぇ~、海月ちゃん、今年で高校生だよね。何年くらい作ってるの?」
『えっと...小学3年生くらいから手伝ってたから、6年位になりますね。』
「うわー、すごいね。海月ちゃんはお母さん想いでえらいね。」
『いえ、そんな事ないです...。』
私にはさっきの鳴瀬さんの言葉が重くのしかかっていた。
私は本当にお母さんの助けになれているのだろうか...。
いつも疲れたようにしている母の顔が浮かんでくる。
「...海月ちゃん?俺、もしかして気にさわること言っちゃった?」
鳴瀬さんに声をかけられて私は我にかえった。
『いえ、そんな事...』
私は必死に誤魔化そうとしたけど、目に涙が溜まっていくのがわかった。
「あのっ、本当ごめんっ!」
そう言って鳴瀬さんが私のほうに駆け寄ってくる。
『いえ、本当に鳴瀬さんのせいじゃありませんから!...私の、せいなんです。』
「えっ、どういうこと?」
『...』
「よかったら話してくれないかな。俺が力になれることは少ないかもしれないけど。」
そう言われて私は鳴瀬さんに話していいものか迷った。でも、誰かに話さないと私が押し潰されそうで...。
『...実はお母さん、月曜日から土曜まで、朝から夜までずっと働き詰めなんです。だからいつも疲れた顔してて...。』