片付け(1)
次の日のお昼前。
まだ自分の勤務先の入社式もまだ半月ほど先である俺は、自室で荷物の整理をしていた。
だがやはり、俺の目の前に広がるのは足の踏み場もないほどに荷物の散らかった光景だった。
...おかしい、絶対におかしい。俺は一昨日から片付けをしているはずだ。なのになぜ...
ピンポーン
俺の苦悩を遮るように来客を知らせるチャイムが鳴った。
『はーい、どちら様ですかー?』
俺は部屋中に散らかった荷物のせいで身動きがとれないため、少し声を張って玄関に呼び掛けた。
「水口です。開けてもらえますか?」
...水口?誰だっけ?
そんな俺の疑問を察したのか玄関から再度声が聞こえた。
「隣の水口 海月です。開けてください。」
そっか、水口っていう苗字だったんだ。
そんな事を思いながら俺はもう一度玄関に呼び掛けた。
『カギ開いてるからどうぞー。俺、今、身動きとれなくって...』
「わ、分かりましたー。お、お邪魔します。」
そう言いながら俺のいる居間に入ってきた海月ちゃんは、手にタッパーのようなものを持っていた。
そして、俺を見て噴き出した。
「...プッ、アハハハハッ!」
俺はア然としていた。なぜそんなに笑えるのか分からないからだ。
「ハハハッ!」
海月ちゃんはまだ笑っている。
そんな海月ちゃんに、俺は少しムッとしながら質問した。
『なにがそんなに面白いの?...やっぱりこの散らかりよう?』
「...すっ、すいません。笑っちゃって。昨日お母さんが言ってたことがそのまま起こってたんで。...アハハッ!」
まだ笑っている海月ちゃんはそう答えた。
『...どういうこと?』
詳しく聞いてみると、どうやら七海さんが海月ちゃんに俺が昔、片付けが苦手だったことを話したようだった。
そしてそれを聞いたばっかりだった海月ちゃんは、今日の俺の状態を見て噴き出してしまったらしい。
...七海さんめ。
『ところで、何の用なの?なにか手に持ってるけど。』
俺は話題を切り替えるため、そう質問した。
「...ああー!そうだった。実は、お母さんに言われてお昼ご飯持ってきたんです。鳴瀬さんがちゃんとしたもの食べてないかも知れないからって。」
前言撤回、ありがとう!七海さん!!
『確かに最近コンビニ弁当ばっかりだったから助かるよ。ありがとう。』
「いえっ、そんな。大したものじゃないですし。」
そう言って海月ちゃんは頬を少し赤らめた。
『でも、これ片付けないと食べれないな...。ハァー。』
そう口に出して、俺は落ち込んだ。
「...あっ、あのっ、迷惑じゃなければ私手伝いましょうか?」
思ってもみない言葉が海月ちゃんの口から飛び出した。